人生楽ありゃ苦もあるさ

日々のつれづれや大好きなものを力いっぱい叫ぶ代わりに書き綴っています。サイト更新情報や、時々BASARA二次創作(小政、家政メイン)も。 

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主は触れられることを頑なに拒んだ。全身を棘で覆い、茨で己を護るかのように。その相手が傅役であってもそれは変わらなかった。
「オレに触れた者はみんな死ぬからな」
だからお前も触れるな。底なしの闇を思わせる昏い瞳を向けてそう告げられたものの、俄かには信じられない。特殊な環境で育った所為か、彼は人間不信の傾向が強いから。それは他人を寄せつけないための防御壁か、或いは彼を産んだ後、精神を弱らせてしまったという生母にそう教えられたか。
「オレは天を統べる資質を与えられた。その代償に業を負った」
「業…とは?」
「一族が負うべき業、ってヤツだ。そいつがこの膿み腐れた右眼に詰まっている」
触れた者は死ぬ―――それがオレの業。そう歌うように告げた主はどこか淋しげで。その瞬間、ああこの人は全てに対して諦めているのだと思った。たった一つ、天を統べる―――武将として羨むべき資質と引き換えに失った全てに対して。
だから小十郎は手を伸ばした。後ずさろうとした主よりも速く。
「小十郎っ」
話を聞いていたのだろうと主が悲鳴を上げた。
「小十郎、オレに触れるな!死ぬぞ」
「いいえ。貴方が拒んでも、俺は貴方に触れます。然様な業に因らずとも人は寿命が尽きれば死ぬものです」
「No!オレの右目に巣食う業はそんな生易しいモンじゃねェ!」
悲鳴。泣きそうな。否、泣いているのか。
「梵天丸さま」
ならば誓おう。この身、この命に懸けて。貴方のために業に抗う、と。

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幽世の果てまで【戦国BASARA:小政】

真っ白な世界。
白は厳しい奥州の冬を連想させる。音を飲み込み、視界を塗り潰されていっそ恐怖さえ覚えたものだが、同じ色合いであっても目にするたびに感じた怖れを今の政宗は不思議と感じることはなかった。
眩いばかりの光が色を奪っているのかもしれない。だから白く見えてしまうに違いないと思った。辺りは目も眩まんばかりの光に溢れていて、“二度”も右目を失った一眼の政宗には些か酷過ぎる。
けれど足許が覚束ないと思えばそうでもなく、その歩みは性分そのままに力強いものだった。

キョッキョッキョッ。

不如帰の啼く声が聴こえた。ああ、こんな所にまでくっついてきちまったのか、と姿は見えど聞こえる声音を仰いで政宗は静かに微笑んだ。
経ヶ峯で聞いた忍音の主だろうか。
「―――ま、退屈な一人旅だ。連れがいてくれた方が助かるってモンだ」
いつ終わりが見えるかもわからぬ、長い旅路だ。これも縁だというのなら、最後まで付き合ってもらおう。
姿の見えぬ連れに政宗は語りかける。失うものが多すぎた幼い時分のこと。それを補って余りある大切なもの―――己が世界の中心にも等しい存在を得た日のこと。独眼竜と呼ばれ、戦に明け暮れた日々。繰り返された戦の果て、ようよう天下が鎮まって訪れた――激動を過ごした武人の己にとっては些か退屈ではあったけれども――穏やかな毎日。
そして―――己が世界の中心が終わりを迎えた日のことを。
「………小十郎、俺のことわかるかな」
彼を看取ったのは三十年近く前の話だ。それから政宗は空虚に耐えながら一人で過ごしてきた。再び見える奇蹟に恵まれるかどうかは定かでないが、もし再見したとして小十郎以上に歳を重ねた政宗を彼はわかってくれるだろうか。
「Ha!思い煩うまでもねェな。あいつは俺の〈右目〉だ」
たとえどんなに時間を隔てたとしても、あの男のことだ。きっと己を見定めてくれる。それは長い年月連れ添ってきた政宗だからこそ得られる確信。
「ああ、逢いてェな。小十郎に」
再見できたら、年甲斐もなく小十郎に抱きついてしまうだろう。
だって仕方がないだろう。自分達は双竜―――添う竜だったのだ。永に此岸と彼岸とに引き離されていた二人が幽世でやっと巡り逢うことが叶うのだから、年甲斐もなく抱きつくことぐらい大目に見て欲しいものだ。
そして小十郎はそんな己を「童ではないのですから」と言って窘めながら、口に反して愛おしげに抱きしめてくれるに違いない。
そうしたらまずは何を話そうか。
「そうだな。まずは………俺は最期まで俺らしく生きたって誇ってやるか」
ふふふ、と笑う。不思議と気分が晴れ晴れしていた。


何も見えない道をどれだけ歩いただろうか。
「What?」
急に政宗の眼前が拓ける。
眩んだ一眼が漸く慣れてくると、大きな川が見えてきた。それは東から西に向かって流れていて、涼しげな川音も聴こえる。
川岸には渡し用の小舟が停泊していて、列を作った人々がどうやら乗船待ちをしているようだ。
「Hum…ありゃ三途の川ってヤツか?もっと殺伐とした処かと思ったんだが、想像していたものとは随分違うな」
行く先が地獄にしろ、極楽にしろ、あの川を渡らなければ始まらない。政宗は小舟が停泊している其処に向かって悠然と歩き出した。
(そういや…ずっと聴こえていた不如帰の音が聴こえなくなっちまった)
此処まで導いてくれたのだろうか。永の旅路の終わりまで付き合ってくれるだろうとばかり思っていたあの不如帰の鳴き声はいつの間にか消えていた。
「仕方ねェな。此処からは一人で行くさ――――」
次第に渡河場が近づいてくる。三途の川の渡河料だろう―――人々は傍らにいる渡し守に冥銭を渡しているらしい。冥銭は六文が習わしで、六文銭と言えばかつて己が好敵手だった男の家紋だった、などと懐かしく思い出した。
こうやってひとつひとつ現世の思い出を流していくのかもしれない。この胸にたったひとつ残ってくれれば、それ以外の思い出を此処で総て流したとしても構わない。
幽世までも己の一部として連れていきたいものなど、政宗にはたったひとつしかないのだ。
三途の川の渡し守は二人いるようだった。その二人のうち、手前の男に吸い寄せられるように政宗の瞳が向けられる。
それは偶然だったのだろうか。それとも―――?
「―――――っ、」
近づくにつれて左眼が大きく見開かれる。隠しきれない昂揚感を映し込んだ唇には自然に笑みが浮かんだ。
「お待ちしておりましたよ、政宗様」
「Marvelous!三途の川の渡し守とやらがお前だとは思わなかったぜ―――小十郎?」
待っていたと告げる愛しい男の姿。その姿は奥州双竜としてともに戦場を駆け巡った、若かりし頃の姿だった。記憶を辿れば、おそらく三十路手前の頃だろうか。
その姿に政宗が驚いていると、政宗も同様なのだと小十郎が笑う。此処では一番強く思い描いた姿が反映されるのだと笑いながら小十郎が教えてくれた。
「渡し守じゃねえですよ。冥銭を渡しても小十郎は渡河できなかったので、ずっと此処に留まっておりました」
「ずっと留まっていた?」
「ええ。未練のある者を乗せると重みに耐えかねて舟が沈むと申されましてね。まあ、小十郎の“未練”など貴方様をおいて他にはないので、この際政宗様がおいでになるまで待ってみようかと」
「俺が此処に来るまでって…wait,お前が先に逝ってからかれこれ三十年近くなるんだぜ?そんな長い時間一人で………」
「政宗様が思われるほど長い時間ではありませんでしたよ。貴方様のことばかり考えていたらあっという間でした」
政宗をまっすぐに見つめて小十郎が微笑む。
竜の右目は伊達軍一厳しい男だった。その男が唯一蕩けんばかりの優しい双眸を向ける、その先に在るのはいつだって政宗だった。そう、今のように。
その優しい眼差しを喪って久しかったが、漸く政宗は取り戻したのだと実感する。

小十郎。小十郎。小十郎――――。

「………随分待たせちまったな、小十郎」
「いいえ。政宗様―――楽しかったですか?」
「ああ、俺は俺らしく生き抜いたぜ。でも再び右目を欠いちまった残りの三十年は、楽しみも半分だったがな」
「それは………小十郎の不徳の致すところ。申し訳ありませぬ」
小十郎の掌が労わるように頬を撫でてくる。
忘れかけていた男の温もりを感じ、不覚にも涙が零れそうになった。
「小十郎………」
舟が出るぞ、と渡し守が朗々とした声で告げた。その声でハッと我に返った小十郎が慌てたように「二名乗る!」と叫んで政宗の手を取る。
訝しげに小十郎を見遣った渡し守に向かって、彼は「舟は沈まねえよ」と自信満々に告げた。
舟は沈まない―――自分にも小十郎にも“未練”など何もないのだから。
「政宗様。さあ、参りましょう」
「ああ」
手に手を取って。


――――――来世はともに楽しむと致しましょう――――――


カボチャ畑でつかまえて【戦国BASARA:小政】


辺鄙な田舎に鎮座する“鳴神神社”を護る宮司、片倉小十郎は、境内の一角にある趣味と実益を兼ねた畑で南瓜の収穫に勤しんでいた。
御社の内に畑を設けるなど罰当たりとは思うが、御社からあまり離れた場所に畑を持ってしまうとこの地の土地神でもあり御社の御祭神でもある龍神様の怒りを喰らう―――というより拗ねられてしまうので、仕方なく境内の一角に設けることにした。確かに拗ねて暴走されては困る。龍神の暴走など徒人には手に余るというものだ。
何の娯楽もない雛の地である。若人に似合わず晴耕雨読の日々を愛している小十郎であったから、当然畑作業に力が入った。お蔭で順調に畑は規模を拡大し、境内の境界が怖ろしいくらいに曖昧になってしまっている。そのうち逆転して畑の一角が境内になりかねない勢いだ。
龍神様を祀る御社がそんな状況でも、土地の者達は然程気にした様子もない。元々おおらかな気質もあるが、それ以前に人口が減って氏子の数が少ないのである。
それでも龍神が鎮座する限り、御社と御祭神を護るのは小十郎の務めであった。それこそ遥か昔、先祖の血が脈々と伝えてきた役目。そして、その役目を小十郎は心から誇りに思っている。誇りに思い、気難しくて高慢でへそ曲がりで我儘で気まぐれで淋しがりの愛しき竜に巡り逢えた僥倖を生涯の光栄と思っていた。
そんな訳で氏子数の少ない神社の宮司は、宮司というよりも百姓の方がよく似合う有様だ。慣れた手つきで収穫をする姿が様になっている。
「よし、今年もいい出来だぜ」
作業の手を止めて一旦立ち上がると、首に引っ掛けていたタオルで汗を拭う。足許の籠には形の良い南瓜が入っていて、その出来のよさに思わず目尻を下げた。そうすると、左頬の傷も相俟ってその筋の男かとつい誤解されがちな強面が、こんな貌もできるのかと驚くほどに甘くなる。
籠の中の南瓜をひとつ手に取り、じっくりと見分をして、口許を綻ばせた。
「この大きさなら政宗様も喜ばれるだろう」
政宗―――小十郎が仕える鳴神神社の御祭神、龍神である。
南瓜の用途―――飾りカボチャはJack-o'-lantern。普通の南瓜は今日の夕食の膳を彩る予定だ。デザートにつけるパンプキンパイかプリン用に残してもいいだろう。小十郎の畑の収穫物は沢山あるので、素材をどう生かそうかと考えるのも楽しい。
「ランタンは俺が作るとずっと息巻いていたからな」
何年か前からこの季節になると必ず『カボチャのランタンを作りたい!』と政宗は言い出した。幸い南瓜なら畑で育てている。それならばと手ごろな大きさのものを与えてみたのだが、どうやら西洋と日本の南瓜では勝手が違うらしい。日本の南瓜は硬すぎて、生のまま彫刻するには向かないようだ。結局その年はランタン作りを挫折して、無残な姿となった南瓜は小十郎の腹に納まった。
『そうだ、小十郎!来年のランタン用におばけカボチャを畑で育てろよ』
何のために此処に畑があるんだと言わんばかりの表情で政宗が言う。
Good idea!と子供みたいな無邪気な笑顔に絆されて―――言うとおりに翌年に向けて南瓜を育てることにした。小十郎としても政宗の笑顔が見られるならば、そのための努力は惜しまない。それくらいこの竜に己を捧げているのだ。
ところが。
おばけカボチャというのは―――種や苗から育てるのは難しいらしい。いとも簡単に政宗は『畑で育てろよ』と言ってくださったが、いざ作るとなると大変なのである。小十郎は小十郎でずっと失敗続きの挫折続きだった。
政宗に劣らず実は負けず嫌いの小十郎は、畑を耕す者として失敗のままで終わって堪るか――政宗に残念な男と思われたくないという見栄もあった――と奮起し、今年になって奮起の成果が漸く現れたのだった。
なかなかの出来に満足げに肯いた小十郎は、南瓜を傷めないようにそっと籠の中に戻すと、母屋兼社務所に戻るべく腰を上げた。
(―――ん?)
母屋の入り口に宅急便のトラックが停まっている。宅急便が届くような予定があっただろうかと思考を巡らせてみたが、小十郎に思い当たる節はない。
そもそも自給自足を旨とする小十郎は宅急便のお世話になるような生活をしていないのだ。宅急便のお世話になっているのは寧ろ政宗の方で――――――。
「………政宗様か」
小さく嘆息をして肩を落とす。
高位の龍神でありながら長く人界に留まり続けている所為か、妙に人間臭くなってしまった竜――しかも人型――は、昨今ネットショッピングがお気に入りだ。つい先日もウサギとネコとどちらが好みだ?などといきなり意味不明な問いを向けられ、答えに窮した小十郎を後目に『面倒だからどっちも買うか』と軽い口ぶりでバニーガールと猫耳の衣装を注文されてしまった。
当然購入は小十郎名義になっている。注文履歴を見て『この男、一体どんな趣味しているんだ』と思われていたら最悪ではないか。下手に世俗に通じている龍神も困りものである。
「まったく…今度は何を頼みやがったんだか」
お願いだから小十郎の名誉だけは守ってほしいものだと―――切に思う。



「小十郎っ」
畑から戻って来る小十郎の気配を察したか、政宗が玄関まで迎えに出てきた。しかも―――トンデモナイ恰好で。
「ま――――…っ、」
人は想像を超えた衝撃を受けると思考が停止する。まさに今の小十郎がそうだった。
あまりの衝撃に大事に此処まで抱えてきた籠を取り落とし、収穫したばかりの南瓜たちがゴロゴロと土間に転がる。
「Hey,小十郎。小十郎?」
「ま、政宗さまっっっ!貴方、なんて恰好しているんですかっっっっ」
驚愕に声が可笑しいくらいにひっくり返った。
「An?なんて恰好って見ればわかるだろ。魔女っ子コスだぜ」
可愛らしい魔女のコスチュームを着ている。魔女ということで元々が女性物なのだろう。下はミニスカートで、黒地の衣装の所為かすらりと伸びた白い脚がやけに強調されている。
政宗は半分放心気味の小十郎に見せびらかすように、短いスカートの裾を摘んでその場でくるりと回ってみせた。
「なあなあ、可愛いと思わねェ?思うだろ?なあ、魔女っ子」
悪びれずに言ってにっこりと笑う。せっかくのハロウィンだから俺も仮装しないとな、などと言って。
「ネットで頼んだんだぜ。これともっとsexyなヤツと。昼間だから自重してcuteな方を着てみたんだが…何だ、小十郎。ひょっとして夜用にとっておいた悩殺系の方が良かったか?」
(の、悩殺系……?!)
そんなコスチュームをどこで注文したのだ?
「政宗様………お願いですから、少しご自重ください。仮にも龍神ともあろうお方が」
「Why?いいじゃねェか、ハロウィンなんだ。少しくらい羽目を外したってどうってことねェよ。だいたい辺鄙な田舎なんだから、少しくらい楽しませろよな」
都会だったらハロウィンパーリィとか仮装して行けるのに、と口を尖らせて拗ねている。土地神でもある彼は此処に縛られて動けないことを承知のうえで言っているのだ。
「お前だって…少しくらい羽目を外して楽しめ」
「―――政宗様」
既に標準装備となって久しい眉間の皺を解すように、政宗の指が擦っている。甘えるように「こじゅうろう」と名を呼ばれれば、此方がどんなに怒っていてもどんなに呆れていても降参である。
竜には敵わぬ。それは先祖代々〈片倉小十郎〉の血に深く刻み込まれたものなのかもしれない。これもまた御先祖が血に施した呪なのだろう。
「あ、カボチャ」
不意に政宗が声を上げた。足許に転がった南瓜に漸く気が付いたらしい。
その中に日本の南瓜とは明らかに異なる―――ハロウィンの装飾で見るようなオレンジ色の南瓜を見つけた政宗の貌がパッと輝いた。
「ランタン用のだなっ、これ?」
「ええ。漸くいいのができました。ランタンをお作りになるのでしょう?」
「Ya!」
「政宗様がランタンを作られている間に小十郎は夕食を用意いたしましょう。政宗様の仰るとおり…せっかくのハロウィンですから」
「小十郎っ」
魔女っ子が飛びついてきた。
「夜は“Trick or Treat”もするからな」
「お菓子をくれなきゃ悪戯するぞ、ですか?」
どちらかと言えば、政宗はそれが楽しみならしい。
「でしたらデザートにパンプキンパイを用意いたしましょう。可愛らしい魔女に悪戯をされぬように」
「No!小十郎テメエ野暮なことを言いやがって…っ!菓子をくれても俺は悪戯するからな!」
どちらにせよ悪戯をする気満々のようだ。尤もベッドの中で悪戯をされるのはいつも政宗の方なのだが。
思わず、くすりと笑ってしまう。それが面白くなかったのだろう。頬を上気させた政宗に睨まれてしまった。
「小十郎っ、覚悟していろよっ」
「………はいはい」
「今夜は悩殺コスでお前のことメロメロにしてやるっ!」
(まったく―――)

可愛いことを言ってくれる。
そんな衣装に手伝ってもらわなくたって―――とっくに小十郎は溺れているのだ。



トマトの日【戦国BASARA:小政】

ああ、畑で陽光をいっぱいに浴びて日々瑞々しさを増す赤茄子のようだ。
目の前で顔を真っ赤にして詰っている可愛らしい主を見ながら、小十郎は知らず頬を弛める。戦場では苛烈さばかりが際立ち、公人としては良き施政者として民草にまで称えられる若き竜だが、こうしてほんの僅かの時間私人に立ち戻り、小十郎の前でだけ見せる素顔は――幼少から一番傍近くで慈しみ、育て、愛情を注いできたという事実を差し引いたとしても――可愛らしいものだ。
「こ、こじゅうろうっ!」
「どうなされましたか、政宗様」
粋な柄の着流しの裾から覗く白い脚。その色の白さは奥州人特有のもので、特に政宗は日に焼けてもその時に赤くなるばかりで、雪膚を失うことはなかった。
対して小十郎は畑仕事に勤しむ機会が多い所為か、日に焼けて肌は浅黒い。それが鍛え抜かれた逞しい体躯によく似合うと政宗は褒めてくれるのだが、翻って自身の色白さをあまり快く思っていないようだ。
どうやら戦人のわりには細い――ともすれば華奢な印象さえ与える――体躯を際立たせるみたいで面白くないらしい。無論彼の肌の白さも筋肉が付きにくい体つきも生まれつきのものだし、それを何ら引け目に取ることもない。そもそも彼の武将の質はそれらを霞ませてしまうほどに輝かしいのだから。
その白い脚を先ほどから小十郎は撫でていた。勿論性的なことを意図してではなく、純粋に主の疲れを解すためである。
「小十郎っっっ」
主にしては珍しく随分と余裕のない―――切羽詰まったような声だった。そんな彼に向かって、涼しい表情で「どうしました?」と再度問うてやる。彼の変化がわからぬような小十郎ではないから、勿論わざとだ。
すす、と優しい手つきで布を撫でるみたいに擦り続ける。ほんのり色づいて敏感になり始めている肌は、ほんのちょっとの触れ合いでも過敏に反応して、それがまた口惜しいのか、政宗は小さな身震いをするたびにきつく左眼を閉ざした。
「政宗様は小十郎の畑の赤茄子のようにございますな」
「な…っ、テメエ。言うに事欠いて主の俺を畑の野菜と同列に扱いやがっ……やめ、それ―――っ」
「小十郎の畑の赤茄子はどれも瑞々しく真っ赤に熟れて食べごろにございます。―――ちょうど今の政宗様のように」
「………―――っっ、」
鋼色の瞳を細めてクスリと笑ってみせる。少しばかり色を匂わせた偽悪的な笑みだ。
「お前が…っ、イヤラシイ触り方しているからだろっ!」
「これは心外な。この小十郎、政宗様のお疲れをとるべくおみ足を揉み解しているだけにございますが」
「You’re liar!」
「南蛮語で申されても小十郎には理解しかねますな」
「Shit!」
忌々しげに舌打ちをして、なおも南蛮言葉で毒づいた政宗は赤く色づいた顔を益々赤くして吼えた。
「い、今が食べごろだって言うならさっさと食えっ!」
ここが潮時だろう。彼のひとをあまり虐めすぎてはいけない。何事も匙加減が重要である。
「御意に」
答えた小十郎は投げ出された主の白い脚に恭しく口づけた。


朝陽に溶ける

青年とは夜だけしか逢えなかった。
小十郎は青年のことを何ひとつ知らない。
どこに住んでいるのか。
昼間は何をしているのか。

「ミステリアスだろ?そういう方が」

ほら、またはぐらかした。
小十郎が一歩踏み込んで青年のことを知ろうとすれば、彼は即座に見えない壁を作るのだ。
知られたくないと背中を丸めて防御するかのように。

「お前のことをもっと知りたいと思うのは……そんなに欲深いことか?」
「Ha!金で買った相手のことを知りたいだなんて…酔狂だな、小十郎は」
「政宗!」

確かに。
出逢いは青年の言うとおりだ。
青年を一晩買った――――――金で。
あの日は何もかも上手くいかなくて、むしゃくしゃしていて、それで繁華街で声を掛けられた青年と一晩を過ごしたのだ。
まさか玄人だとは思わなかったが。
玄人だと思わなかったのは、特有の匂いを感じられなかった所為だ。
相手の寵を得ようと媚びたりしない。抱いても清廉な気は変わらず、醜い慾に穢れることもない。
不思議な青年だった。

―――だから、魅せられた。

行きずりのつもりで共にしたのに、次を望んでしまった。
そうして今に至る。

「なあ、小十郎。俺は朝になったら消えるんだよ」

青年が笑う。

「だから逢えるのは夜だけだ。You see?」


目が覚めれば。
この手に残るのは、貴方がいないという現実のみ。




無知なフリして確信犯【戦国BASARA:家政】

政宗が書き上げた書状に最後の仕上げとばかりに花押を書こうとしたところで邪魔が入った。
家康である。
「なあ、独眼竜」
ふう、と長嘆すると諦めて筆を置く。
何事も完璧でなければ気が済まない政宗は、花押にもかなりのこだわりをみせる。最後の最後で花押が綺麗に書けなければ、たとえ素晴らしい書状を書けたとしても総て台無しだからだ。
政宗の傍らににじり寄った家康はひょいと政宗の手許を覗き込み、それから政宗の貌を見て年少者らしく殊勝な面持ちで「教えてくれ」と言った。
ちなみに―――政宗はこういう態度に弱い。
「An?なんだ?」
「何百年ぶりかに日蝕があるというではないか。えーと…」
「ああ、金環蝕な。見てェなら裸眼では絶対見るなよ?眼を痛めるぜ」
元親が専用眼鏡を作っていたから、そいつを使えと指示をする。もちろんそうするつもりだ、と家康は笑って肯いた。
「その、日蝕なんだが。どうやって起こるんだ?」
政宗の前で胡坐をかいた家康は、きらきらと懐こい眼を輝かせて“日蝕の仕組み”についての教えを乞うてきた。
「Ah~,日蝕っていうのはだな」
文机に向き直った政宗は真新しい紙を出すと、筆を取ってサラサラと簡単な絵を描き始めた。
「これが太陽、こいつが月だ」
「ふむふむ、」
大きい丸と一直線上に小さい丸を描いて家康に示す。
「日蝕ってのは月が太陽を隠すことで起こる現象なんだが、俺たちの眼から見た時に月の直径が太陽の直径が大きいと太陽がすっぽり隠れる。これが皆既日蝕、逆に月の直径が小さいと月の外側に太陽がはみ出して光輪状に見える。こいつが金環蝕だな」
家康は政宗の説明にわかったようなわからないような表情を浮かべる。
「つまり、えーと…」
紙面の上での展開だと今イチわからんが…と前置きした家康は腰を浮かせると、政宗の手を取った。どうやら政宗にも立てと促しているらしい。
二人して立ち上がると、家康は改めて「つまり、こういうことか?」と訊き返した。
「ワシが独眼竜をこう抱きしめると隠れるだろう?これが日蝕か?うん、独眼竜は今日もいい匂いだな」
「No!俺が隠れたら日蝕じゃねェ。そいつは月蝕だ。っていうか、なにどさくさに紛れて人の尻触っていやがる」
政宗を抱きしめた家康は背中に回した手をそのまま下に滑らせ、政宗の桃尻を触っていた。政宗が噛み付くと「わあ、手が滑ってしまった」などと悪びれずに答え、はははと朗らかに笑う。何が手が滑った、だ。この確信犯め。
「日蝕は俺がお前を隠すんだ。つまり、こう」
そう言って、家康を抱きしめ返す。
「おお、なるほど!」
「テメエは図体がデケエからちょうどいい。俺がこう抱きしめてもお前をすっぽり隠しきれねェだろ?この体勢が金環蝕…ってところだな」
「なるほど。言葉で理解するよりも、やはり実践してみた方がわかりやすいな。さすがは独眼竜」
にこにこと笑った家康が甘えるように鼻先をすり寄せてくる。その感触がくすぐったくて、釣られるように政宗も微笑んだ。
ちょうどその時。
「政宗様、」
タイミングが良いのか悪いのか、表廊下から小十郎の声がした。
「お疲れにございましょう?お茶をお持ちしましたのでそろそろお休みしては如何か」
待て、という暇も与えてくれない。無駄のない所作で障子が開き、垂れた頭を上げた竜の右目が視たものは―――。
「とーくーがーわーテメェぇぇぇぇっ」
地獄の扉が開いたような、地の底から這い出る低い声が聞こえてきた。恐る恐る眼を向ければ、バチバチと帯電している憤怒の小十郎の姿が其処にあった。
極殺発動寸前状態である。
「テメエッ、政宗様になに不埒な真似をしていやがるっ!!!!」
「Wait!落ち着け、小十郎っ」
「政宗様から今すぐ離れねえか!この小賢しい狸がっっっ」
「待て待て待て、右目。これは独眼竜が日蝕の原理を教えてくれてだな、」
「問答無用だっ。地獄を見やがれ!!!」


その日。何百年ぶりの日蝕を前に、こちらはさほど珍しくもない特大の雷が落ちたという。


小十郎の日【戦国BASARA:小梵】

ぱたぱたと廊下を走ってくる足音が背後から聞こえてくる。
この足音は幼い主のものだ。小十郎にはすぐに聞き分けられてしまう。
「こじゅーろー!」
元気の良い声がしたと同時にどんっという衝撃に見舞われた。踏ん張りきれずに不覚にもよろめいてしまう。走ってきた勢いのままぶつかってこられたのだから仕方がない。
「梵天丸様、危のうございますぞ」
やれやれと見下ろせば、袴にしがみついて此方を見上げている幼い貌がポンッと花が咲いたかのような笑顔になる。小十郎はこの笑顔に滅法弱い。
とはいえ、小十郎は傅役である。幼い主に分別をつけてもらうのもその役目。時には厳しく窘めなければならない。
だが、今回は小言を繰りだす前に機先を制されてしまった。
梵天丸は飲み込みの早い聡明な子供で、どうやら日々の小十郎とのやり取りの中で巧くあしらう要領を覚えてしまった節がある。仕える主が聡明なのは喜ばしいことだが、この場合少々複雑だ。
「こじゅうろう、come on」
「ぼ、梵天丸様?」
最近興味を覚えた南蛮言葉を舌に乗せた――少しばかり舌足らずなのがなんとも可愛らしい――梵天丸は、幼子特有の丸みを帯びた柔らかな手で小十郎の武骨な手を掴むと、ぎゅうぎゅうと引っ張った。
何処へ連れて行くつもりなのかと問うても、梵天丸は手を引っ張って「いいから!」と言うばかりだ。これは何か企んでいるなと思ったが、せっかくの上機嫌なのでおとなしく従うことに決めた。
連れて行かれたのは梵天丸の部屋。
「梵天丸様?」
小十郎の手を離した梵天丸は、ちょこんと正座をすると「こじゅうろう」と呼んだ。
「―――?」
主は一体己に何を求めているのか。怪訝そうに梵天丸を見下ろした――この行為は臣下として無礼にあたるかも知れない――小十郎は必死になって考える。
「こじゅうろう」
突っ立ったままの小十郎に焦れたのか、今度は少しばかり語気強く呼んだ梵天丸は、トントンと傍らの畳を叩いた。どうやら此処に座れというらしい。
仰せに従って座ると、今度は「No!」と言われてしまった。目を丸くすると、「違う!」と焦れったそうに言われる。
「あたま」
「は?頭―――がどうしたと?」
「あたまを梵天のひざにのっけろ」
膝枕をしてやる、と言うのだ。この幼い主は。
「今日は“こじゅうろうの日”だからな。特別に梵天に甘えさせてやる」
再び目を丸くする。我ながら間抜け面を晒しているのだろうと小十郎は思った。
「梵天丸様。憚りながら、その…小十郎の日というのは一体?」
「さっき梵天がきめた。こじゅうろうが梵天に思いっきり甘えてもいい日だ」
「―――はあ、」
膝枕、というのは梵天丸が昼寝の時に小十郎がしてあげているところからきているのだろう。
「こじゅうろう、早くしろ」
催促するように小さな両の手が小十郎に向かって伸びた。
甘えろ、と臆面もなく幼子は言う。
(思いっきり甘えてもいいなんて―――俺は毎日のように甘えているんですがね)
貴方は知らないだろうけれど本当は。
そんなことを思って、小十郎は苦笑を浮かべた。



小十郎の日。
それは以後も主従の間で長く続く習慣となる―――。

Twinkle, twinkle【戦国BASARA:家政】

表からわいわいと騒ぐ、男たちの陽気な声が聞こえてくる。笹の葉音も聞こえるから、今夜の七夕の宴の準備をしているのだとわかる。
七夕の宴は伊達軍の恒例行事で、大広間に臨む庭に竹林から切り出した竹を据えて、伊達軍総出で楽しむ。伊達家は代々風流と粋を好む家柄で、そもそもが数代前の棟梁が雅を楽しむために始めたものらしいのだが、代を重ねるうちに趣を変え、今では軍の結束を図るためのひとつとなっている。
風流という名に託けて皆が楽しめるのならばそれでいい、と政宗自身思っていた。
「しかし…、」
小さな溜息をひとつ零す。
目の前の文机の上には、短冊が一枚置かれている。竹に飾るのだと言って、家臣たちから渡されたものだ。ひとり一枚ずつ短冊に願いごとを書き、竹に飾る。これもまた伊達軍の恒例である。
「…願いごと、ねェ………」
腕組みをして、短冊を睨みつける。改めて願いごと…と言われても―――もちろん、天下は竜が呑み込むということこそ、己の願いごとの最終形態であるが、それは他力本願で成就すべきものではない。己の力で掴み取るものだと考えている。また、そんな政宗の決意は〈竜の右目〉である片倉小十郎をはじめとする伊達の家臣たちにもちゃんと伝わっているから、今更書く必要もなかった。
「…もっとこじんまりとしたものか」
民草の安寧も一国の主として願うべきことかもしれない。けれど、これもまた一国の主たる己の資質如何を問うもので、己が彼らの安寧を得るためにしっかり働くという覚悟があればいいことだ。
政宗の願いとは、基本的に総て“他人に叶えてもらう”ようなものではなく、“己が手で掴む”ものだった。
「うーん…」
改めて願いごとと言われても、案外出てこないものである。
頭を抱えた政宗だったが、不意に小十郎に言われた言葉を思い出した。

『〈奥州筆頭〉としてではなく、政宗様ご自身の願いでよいのですよ』

「俺の願い、か―――」
例えば、逢いたくても逢うことも儘ならない、そんな相手に逢いたいと願うこと。
けれど、逢えばそれだけでは満足できなくて、ずっと一緒にいたいとまで願ってしまうこと。
「………逢いてェな」
逢えば、年上の自尊心と意地が邪魔して素直に口にすることができないが、こうしてひとりでいる時は、不思議なくらいスルリと想いが口を衝く。
「…逢い、てェ」
逢いたいと願っても、気軽に逢うことも儘ならない。
まさに天上の牽牛と織女のようだ。
年に一度、七夕の日に逢うことが叶うという天上のふたりに自分たちを準えて、政宗は苦く笑った。


七夕の宴は無礼講で盛り上がっていた。
結局、政宗は短冊に本音を書くことができず――またもや意地やらが邪魔したためだ――、本当の願いは胸の奥底に仕舞い込んで、短冊には当たり障りのないことを書き、他の短冊とともに竹に飾られている。
皆が楽しんでいる様子を肴に政宗も酒を呑んでいる。我らが筆頭にお酌を、という者たちが後を絶たず、それらに応えているものだから政宗もそれなりの酒量を腹の中に収めていた。終いには傍にいる小十郎に見咎められ、酌をしたいと群がる者たちは右目の一喝で散らされてしまう有様だ。
それもまた楽しかった。
その時だった。
遠くの方からずうううんと腹に響くような音が聞こえてきた。異変を察知した小十郎が途端に顔を顰め、すぐさま様子を見に部下を走らせる。
ややあって戻ってきた部下から報告を受けた小十郎は、見る見る眉間にくっきりと深い皺を刻ませた。
「…政宗様、」
「What?」
機嫌よく笑う政宗の耳許で、小十郎がそっと耳打ちをする。
「この騒ぎで―――牽牛が空から落ちた由にございます」
「An?牽牛だと?Ha!空から落ちてきやがるとは、バカな牽牛もいたもんだぜ」
くつくつと喉を震わせる政宗の笑い声を掻き消す騒々しさで、廊下から足音が聞こえてきた。もちろん小十郎の顔つきは、ますます剣呑なものになってゆく。
「独眼竜っ!」
転がるような勢いで大広間に飛び込んできたのは―――家康だった。
「…Oh,」
左眼を緩く見開く。
間違いない。家康だ。
「逢いたかったぞ、独眼竜っ。というか、逢いたくなったから逢いに来てしまったっ」
周囲の者たちのことなど気に留める素振りもみせず――どちらにせよ呑んだくれているので、彼らの目を気にする必要もない――、家康は満面の笑みで政宗に向かって告げた。
「家康…、」
ああ、こんな風に。
なんの衒いもなく「逢いたかった」と言えればいいのに。
けれど、口を衝いて出てきた言葉といえば。

「………とんだ牽牛サマだ」

「はははは。そうか、ワシを牽牛に見立ててくれるか。ならば、独眼竜は織女だな」
「No!!!誰が織女だっ」
「逢いたかったぞ、ワシの織女」
「家康、テメエ…っ」

とりあえず。
―――来年の短冊には『素直になりたい』と書こう、と密かに決心した政宗だった。

白い闇【戦国BASARA:家政】

流れるように走らせていた筆先が突然止まる。
諦念したような溜息が唇から転げ落ちたのは、ある程度覚悟していたことだからに過ぎない。
(Shit!きやがったか…)
政宗は左眼を頻りに瞬かせた。
隻眼の所為で狭まった視界には慣れている。しかし、狭まった視界を補うための唯一残された視覚が次第に使いものにならなくなっているのだ。
何度瞬いても霞む視界は変わりない。
左眼を使いすぎている自覚はある。
隻眼ゆえにそれは仕方がないことだった。
失った右眼の役割をも左眼ひとつで担うのだから、どうしたって使いすぎてしまう。ならば使いすぎないように、とセーブすればいいのだが、如何せん集中すると周囲が見えなくなる性質なので、気が付いたら“使いすぎていた”という具合で。
筆を置いた政宗は瞼を下ろすと、指先でゆっくりと揉んだ。ただ眼が疲れたというのならば、いい。少し眼を休ませればいいだけの話だ。
怖いのはこのまま左眼まで見えなくなっていくのではないか、ということ。
たったひとつの視覚まで失ってしまったら、政宗に残されるのは闇だけだ。そして、そのことを政宗の周囲の者達───特に自他ともに〈竜の右目〉と認める片倉小十郎は怖れていた。
ゆえに。
小十郎にだけは知られてはならない。〈右目〉は何よりもそれを怖れているのだから。
瞼を落としたまま、政宗はきゅっと口を引き結んだ。
無論、この状況が左眼の視力を奪うことに繋がると即断するのは些か急すぎる話だ。
「仕方ねェな」
左眼を酷使したための症状だ、と考えた方が今は幾分気が紛れる。無為に時間を過ごすことは性格上好まないのだが、この場合は回復のために少し休んだ方がいいのかもしれなかった。
「闇、か…」
一面が黒に──或いはこの際白でも大した違いはあるまい──塗り潰された世界に立つ己を想像してみる。
なにも、見えない。
なに、も───?
覚えずふるりと背が震えた。
戦場に立ったとて武者震いはあっても、恐怖に震えるといった覚えは一度だってなかったのに。
(Ha…捕らわれたか、恐怖ってヤツに)
独眼竜ともあろう者が情けねェ、と自嘲気味に呟くと苦く笑ってみせた。

「独眼竜、」

例えるならば。
なにも見えない世界に突然光が射し込んだかのような心地だった。
閉じた瞼をゆっくりと引き上げるが、ぼやけた視界はしかとその姿を結ぶことができなかった。けれど、それでもこのタイミングで己の前に現れてくれたことに安堵する。
いえやす、と頑是ない子供のように政宗はその名を口にした。
「お前………さては根を詰めすぎたな?」
「An?」
瞬き返す──のはその姿をよく捉えようとしてでもあるのだが──政宗を見つめ、やれやれと肩を竦めた家康は、ずんずんと大股で政宗の傍までやってくると、ストンと腰を下ろした。
ぬっと腕が伸びる気配がするや、その手が政宗の後頭部に回り、引き寄せられる。その流れるような行為に政宗は一瞬居を衝かれたため、抗議の声を発するのが一拍遅れてしまった。そこへ畳み掛けるように、だ。
「眼、」
見えにくくなっているのだろう?
「竜の性格はワシもよく知っているからな。気取らせぬつもりだったかもしれんが、そうはいかんよ」
「───ッッッ」
「図星か」
ふふ、と笑う気配がする。
頭を撫でているのは機嫌をとるためだろうか。そういう動作も子供扱いされているみたいで心底面白くない。そもそも政宗の方が家康よりも年上なのだ。
尤も、今更そんなところに拘っても詮無いのだが。
「独眼竜?」
「………Shit!」
忌々しげに舌を打ち、もういいと低く唸ってみせる。
どうせここで喚いてみたとて、家康のことだ。にこりと笑うばかりでちっとも堪えはしないだろう。だったら、やるだけ無駄なことだ。
とはいえ腹の裡がどうにも収まりそうにないので、せめてもの反抗にどんと背中を叩いてやった。
「おいおい、痛いぞ」
「Shut up!」
痛い、と言っているくせに笑っている。その余裕が憎たらしい。
「…なあ、機嫌を直してくれんか」
「………」
不思議だった。
家康がこの場に現れるまで、確かに捕らわれた筈の恐怖。それが今では微塵もないのだ。
いっそ清々しいほどに。
やはりこの男には闇を払拭する陽の力が宿っているのかもしれない。不安も恐怖も───諸共に消し去る陽光の如き力が。
顔を上げる。
間近に家康の顔を捉えた。今度はぼやけることなく、ちゃんと輪郭を結んでいる。
「……そういう力を備えてるってコトか」
「うん?」
「Ha!俺にはお前が必要だってことさ」
それは、家康にとって思ってもみない告白だったのだろう。
驚いて大きく見開いた瞳を白黒させている家康を見上げ、政宗は左眼を撓めて綺麗な笑みを浮かべた。


もっと…傍にいたかった

12月4日は小十郎の命日(新暦)ということで、先週の土曜日はいろんなサイト様で追悼SSを読んでいたんですけど。
追悼SSとなるとどうしても死にネタになってしまうんですが、せっかくなので私も書いてみようかな…などと思って浮かんだ言葉をそのまま文字に落としてみました。とりあえず、ほんの2行ですが。(短すぎる…)
どんなタイミングなのか、ちょうどその時に聴いていたのががくっちの『Last song』で、わあナニこれ!と思ってしまいました…(苦笑)。
気が向いたら、きちんとお話として起こしたいと思います。


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