81.弔い【鋼:ヒュロイ】
鏡の向こう、やや憔悴した己を亡羊と見つめ、ロイは上手く笑えていただろうかと考えた。周囲の誰にもそうと悟られずに、或いは宴の主役達にも気取られずに上手く己の役回りを演じきることができただろうか。
(こんな顔では…どうだかな───)
自嘲気味な笑みが口許に浮かぶ。零れた溜息は重く、それにまた疲れたように笑い、首許にだらしなくぶら下がったタイを引き抜いた。
疲れた、と思う。このまま何も考えずに深く眠りたい、と欲する。いっそ目覚められないほど深い眠りでも。無論、現実は眠ることすらできないのだろうけれど。
これからは一人でもちゃんと眠れよ?
母親か何かと勘違いでもしているのではあるまいか。そんなお節介甚だしい言葉を残して、ヒューズは彼が選んだ女性と結婚した。誰からも祝福される、そんな二人だった。
新郎新婦二人の心根そのままの温かな披露パーティ。その席にロイは新郎の親友として先程まで出席していた。凡そらしくもなくどんちゃん騒ぎに付き合って、新たな家庭を持つ親友を祝福した。
お前も早く結婚しろ、等しく幸せになれ、と煩いくらいその席で語られ、ロイは何度も余計なお世話だとばかりに顔を顰めた。
本当に今更だと思う。大罪を犯したロイ自身、主体的に幸せになろうなどと考えてもいない。唯一幸せと呼べるものを得られたかもしれないと思うならばそれは彼の存在だが、それも最早潰えたといっていい。
無論、ヒューズが結婚したからといって自分達の表面上の関係に変化が訪れるものではない。今までどおり親友であることに変わりはないし、共に死線を潜り抜けた戦友であり、最も信頼のおける人間だ。
ただ、それらに混じってひっそりと冠していた<もの>が消えてしまっただけで。
「……ッ、」
行き場を失ってしまった、名付けることすら憚られるそれは、このまま誰にも告げられることなく静かに葬られるのだろう。
それでいい。
知らしめることなく、この胸の奥深くに沈めればいい。
「今日を限りにこの想いに弔いを───」
手向けの花などいらないから……
365題 お題配布元:capriccio
(こんな顔では…どうだかな───)
自嘲気味な笑みが口許に浮かぶ。零れた溜息は重く、それにまた疲れたように笑い、首許にだらしなくぶら下がったタイを引き抜いた。
疲れた、と思う。このまま何も考えずに深く眠りたい、と欲する。いっそ目覚められないほど深い眠りでも。無論、現実は眠ることすらできないのだろうけれど。
これからは一人でもちゃんと眠れよ?
母親か何かと勘違いでもしているのではあるまいか。そんなお節介甚だしい言葉を残して、ヒューズは彼が選んだ女性と結婚した。誰からも祝福される、そんな二人だった。
新郎新婦二人の心根そのままの温かな披露パーティ。その席にロイは新郎の親友として先程まで出席していた。凡そらしくもなくどんちゃん騒ぎに付き合って、新たな家庭を持つ親友を祝福した。
お前も早く結婚しろ、等しく幸せになれ、と煩いくらいその席で語られ、ロイは何度も余計なお世話だとばかりに顔を顰めた。
本当に今更だと思う。大罪を犯したロイ自身、主体的に幸せになろうなどと考えてもいない。唯一幸せと呼べるものを得られたかもしれないと思うならばそれは彼の存在だが、それも最早潰えたといっていい。
無論、ヒューズが結婚したからといって自分達の表面上の関係に変化が訪れるものではない。今までどおり親友であることに変わりはないし、共に死線を潜り抜けた戦友であり、最も信頼のおける人間だ。
ただ、それらに混じってひっそりと冠していた<もの>が消えてしまっただけで。
「……ッ、」
行き場を失ってしまった、名付けることすら憚られるそれは、このまま誰にも告げられることなく静かに葬られるのだろう。
それでいい。
知らしめることなく、この胸の奥深くに沈めればいい。
「今日を限りにこの想いに弔いを───」
手向けの花などいらないから……
365題 お題配布元:capriccio
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