人生楽ありゃ苦もあるさ

日々のつれづれや大好きなものを力いっぱい叫ぶ代わりに書き綴っています。サイト更新情報や、時々BASARA二次創作(小政、家政メイン)も。 

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2.初恋【幻水Ⅱ:赤青】

(あ、り、え、な、い!!!)
憤懣やるかたないといった表情で、目下少年は己の境遇を呪っていた。そんな少年とは対照的なのが、彼を囲む二人の女性。尤も対照的とは云いつつも、同情的な表情を浮かべているのが少年の姉で、やるならとことん徹底的にと悪ノリしているのが少年の従姉である。
「ウン、上出来。どこから見てもちゃんとしたレディだ。可愛いねぇ、マイクロトフ」
「…ちっとも嬉しくない」
ブスリと不貞腐れて、半ば強制的に着飾らされた少年───マイクロトフは答えた。このような恰好が可愛いと云われても嬉しい筈がない。マイクロトフはレディなのではなく、れっきとした男なのだ。自尊心が傷つく。
「何を云っているんだい。罰ゲームがかかった勝負に負けたのはマイクロトフだろう?」
自分の腕を過信して油断したね?従姉殿は何処までも己の心中を見通しているらしく。かんらかんらと豪快に笑う彼女を前にマイクロトフはぐうの音も出ない。
確かに。慢心があったのは事実だ。同じ年頃の子供達と張り合って自分が剣で負ける訳がない、と思っていたから。
事の発端は、騎士見習として幼年学校で学ぶ友人達との剣の勝負だった。ただ腕を競うのもありきたりで面白味がないから負けた奴は罰ゲームな、などという条件を二つ返事で受けてしまったのだが。まさか自分が負けるとは思ってもいなかった。
後年、栄えあるマチルダ騎士団青騎士団長として逞しく成長するマイクロトフも、この時分はまだまだ成長途上だった。筋肉も薄く、体つきも子供独特の丸みと華奢さが残っている。加えて、変声期もまだ迎えてはいない。
だから、短く刈り込んだ髪は鬘を被るとして。ドレスを着せて少しばかり化粧を施せば、いくらでも化かせるのだ。当人にとっては甚だ不本意なことではあるけれど。
「男の子なんてすぐ成長するものだからねぇ。こんな遊びができるのも今のうちだよ。良く似合ってる。そう思わない?ねぇ、キルシュア?」
「ヒルダ、あまりマイクロトフを苛めないで。マイクロトフも、無理しないで」
嫌なら脱いでおしまいなさい?容赦ない従姉とは違い優しい姉は弟の心中を慮って助け舟を出してくれたが、マイクロトフはその申し出をやんわりと拒んだ。
「マイクロトフ?」
条件付きの勝負に負けたのは、自分なのだ。罰ゲームの内容が嫌だからといって逃げる訳にはいかない。不本意な恰好に自尊心は傷つくけれど、それ以前に敵前逃亡は男の沽券に係わる。
「嫌だけど……退く訳にはいかない。だって、約束だから。約束は守る」
毅然と告げるマイクロトフを見つめ、二人は少しばかり驚いた顔をした。が、すぐに嬉しそうに微笑む。
「参ったね。カッコイイじゃないか。数年先が楽しみだ」
きっとイイ男になっているよ。
ねえ?と従姉が姉に同意を求めれば、彼女もまた微笑みながら小さく頷いて。そんな二人は代わる代わるにマイクロトフを抱きしめてくれた。


ロックアックス最大の祭でもある『夏至祭』に女装して出掛ける───それが件の罰ゲームの中身だ。
目印とした木の幹に凭れて両腕を組み、仏頂面でマイクロトフは友人達を待っていた。従姉がいろいろな意味で張り切ってくれたお蔭で、見てくれは完全に少女に化けている。誰もこれが未来の騎士様だとは思わないだろう。
綺麗に結い上げられた黒髪に漆黒の瞳。瑞々しい果実を思わせる唇。まるで人形のような愛らしささえ漂わせるが、如何せん仏頂面で総て台無しだ。
(全く…ッ)
眉間に益々深い皺が寄る。そろそろ約束の刻限だというのに、友人達は誰一人として姿を現さない。女性を敬うのは騎士の本分の一つである。自分達は騎士ではない、未だ卵の存在であるが、それにしても女性──ではないのだが、この際目を瞑って──を待たせっぱなしというのは、騎士としていただけないと思う。
皆が来たら、「騎士の風上にも置けない奴らだ」と精々文句を云って気を晴らそう。そう心に誓うマイクロトフだ。
憮然とした表情を崩さないまま、マイクロトフは往来の人々を見遣った。どの顔も夏至祭を前に楽しそうだ。自分だってこんな恰好でなければもっともっと楽しめた筈だ、とマイクロトフは思った。思って、今更なことを考えてしまう己の女々しさに嫌気が差す。何度も繰り返すが、勝負に負けたのは自分なのだ。
「誰でもいいから早く来ればいいんだ。手持ち無沙汰でいるから、ロクでもないことばかり考える」
知らず愚痴ったマイクロトフは、ふと己を見ている視線に気づいた。
「───?」
瞳が合えば、その持ち主はマイクロトフの知らない少年だった。年頃は同じくらいだろうか。しかし、幼年学校でも見たことはない顔である。尤も、ロックアックス在住の少年皆が皆騎士になるとは限らないから、町屋の子供かもしれない。流石にマイクロトフもそこまで交友関係が広い訳ではなかった。
じっと食い入るようにこちらを見つめてくる不躾な瞳が煩くて、マイクロトフは思わず相手を睨みつけた。すると、相手は慌てたように一度瞳を逸らし、それからまた恐る恐るといった態でまた見つめてきた。ここら辺では珍しい菫色の瞳は随分と雄弁だ。大方声を掛けるべきかどうか逡巡しているのだろう。
(な、何を勘違いしているんだッ!)
この恰好がつくづく恨めしい。こんな恰好をしているから、間違われるのだ。いっそ俺は男だ!と、これでも騎士の卵なんだぞ!と怒鳴ってやろうか。
益々眦をきつくしたマイクロトフはフンとそっぽを向くと、淑女にあるまじき大股でその場を離れたのだった。
「・・・あ」
マイクロトフは知らない。
そのほんの一瞬の───しかし、マイクロトフ自身にとっては最低最悪な出逢いが。誰かにとっては<初恋>となり得たことを。
その時の想いを彼が聞かされるのは、もっとずっと後のことである。

365題 お題配布元:capriccio


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