人生楽ありゃ苦もあるさ

日々のつれづれや大好きなものを力いっぱい叫ぶ代わりに書き綴っています。サイト更新情報や、時々BASARA二次創作(小政、家政メイン)も。 

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098.幸せだと、言ったけれど【戦国BASARA:小政】

(Shit!本降りになってきちまった)
茶湯座敷の下地窓から恨めしげに表を眺め、政宗は小さく舌打ちをした。“隠れ鬼”の最中にぱらりぱらりと雨が降り出したので雨宿りがてらこの茶湯座敷に逃げ込んだのだが、本降りになるのだったら少し濡れてでも屋敷に戻るべきだったのかもしれない。
得てしてそういう状況になってみて初めて後悔する訳だが、その時点の政宗にはその選択肢は全くと言っていいほどなかった。執務から逃げ出した手前、自分からすごすごと戻るだなんてcoolではないことをするのは負けず嫌いな政宗の主義に反していたということもあるが、何よりも自分から仕掛けて自分から放棄した際の、己が右目の止まることを知らぬ説教に延々と身を浸さなければならないことを恐れていたからだ。
勿論、右目に見つかってしまっても政宗の末路は然程変わることはなく、説教の海で溺れることになるのだが――そもそもあの男は殊、政宗に関しては傅役の時分から獣並みの嗅覚の持ち主なのだ――、自分から舞台を下りるのと相手に見つかって連れ戻されるのとでは心の持ちようが異なるものだ。政宗にとって前者は屈辱に近いが、後者は半ば自身が望んでいることでもあったから余計にそう感じているのかもしれない。
“隠れ鬼”というのは退屈を厭う政宗が政務を放棄して逃げ出し、それを〈竜の右目〉である片倉小十郎が追いかけるという、その一連を暗喩したものである。それは今の関係が構築される以前―――それこそ政宗が梵天丸という幼名で呼ばれ、小十郎がその傅役だった時分から続いているのだから相当年季が入っているというものだ。
幼少時の政宗は置かれた環境の所為か内向的で、そのくせ偏屈で癇癪持ちという凡そ可愛げなく、また扱い難い子供だった。愛情よりも諦念を先に覚えてしまった子供だったので致し方がなかったのかもしれないが、言葉にして気持ちを伝えようとしなかった――どうせ伝わらない、と端から諦めていたからだ――ために感情を持て余して結果癇癪を起こすという状態で、そうなると誰の手にも負えない。
そうして逃げ出した政宗を追いかけるのは決まって小十郎だった。無論それは傅役という責務に因るものであったかもしれないが、小十郎は政宗が何処に逃げ込んでも必ず見つけ出した。膝を抱えて蹲り、嫡男に相応しくないと思いながらも涙を止められずにいた自分をいつだって見つけてくれた。

『梵天丸様が何処に隠れようと―――この小十郎は必ず見つけて差し上げますよ?小十郎は“隠れ鬼”が得意なのです』

政宗を見つけるたびに小十郎は言ったものだ。
本当か。嘘ではないのか―――確かに当初は感情を持て余して逃げ出していたけれど、政宗にとってそれはいつの間にか小十郎を“確かめる”手段に変化していた。
逃げれば追いかける、否、逃げたら追いかけてくれる。そうすることで政宗はそれまでどんなに手を伸ばしても得られなかった“愛情”というものを小十郎に求めようとしていたのかもしれない。そして、小十郎もまた政宗に自身にそれまで欠けていたものを求めていた。
今思うとお互いに不器用すぎて、そうであるがゆえにお互いで埋めようとしていたのかもしれない。
とにかく。
今となっては“隠れ鬼”は双竜にしか理解できない一種の愛情表現だった。
「どうせ何処に隠れていようと小十郎が見つけちまうんだ。だったらおとなしく待っていてやるとするか」
茶湯屋敷は確かに城内だけれども、政宗が本拠としている屋敷から一番離れた場所に位置している。それに本降りになってしまった今、外に出たところで濡れ鼠がオチだ。戦場であれば少々の無茶も厭わない政宗が、この場は踏み止まるべきだと考える。なにより無茶をしでかした後の小十郎の態度が政宗には怖ろしかったし、実際、想像するだけで奥州筆頭たる政宗を震え上がらせるに充分な経験を積んできていたので、とてもではないが無謀を冒す気にならなかったのだ。
小十郎は傘を携えてやって来るだろう。
それまでの時間を静かに待つのは決して嫌いではない。
脳裏に描けば自然と緩んでしまう口許。唇が柔らかな弧を描く。
「――――――小十郎、」
次第に強まる雨足に煙る外を眺めながら、政宗は「早く見つけてくれ」と言葉にすることなく願った。


雨音に混じってバシャバシャと跳ね上がる音が次第に近づいてくる。瞼を閉じてそうと確かめずとも、政宗にはそれが誰のものかすぐにわかった。
躙口の戸がするりと引かれると、ぬっと大きな躰を縮めた小十郎が入ってくる。
「毎回のことだが、貴人口から入ってくればいいのによ」
窮屈そうに縮めた体躯を苦笑しながら見守った政宗は、肩口を濡らして入ってきた小十郎に向かってそう言った。頭を屈めて体を入れる小さな躙口は、小十郎のような屈強な男には窮屈だろう。見ていて忍びないので貴人を迎え入れるための貴人口からの出入りを勧めている――そもそも政宗の眼鏡に適った貴人を迎え入れる機会など滅多にない――のだが、堅物の小十郎は「小十郎は政宗様の〈右目〉にて然様な身分にはありませぬ」と頑なに拒んでくれる。主が構わないと言っているのだ。何も窮屈な思いをしてまで躙口から入らなくてもいいだろうに、この頑ななまでの融通の利かなさがまた小十郎の美点でもあり、政宗が愛でるひとつでもあった。
「小十郎は貴人ではありませぬ、と何度も申し上げておりましょう」
案の定な答えだ。同じやり取りを何度となく繰り返しているくせに、それでも求めてしまうのだから自分も大概性質が悪いのかもしれない。
「思ったよりも早かったな、小十郎。もう少し遅くなるかと踏んでいたんだが」
小十郎を侮られますな、と真顔で返す男に政宗は苦笑を貼りつかせたまま肩を竦めてみせる。
「確かに今回は少々難儀いたしましたが、隠れ鬼は得意ですので」
「Ya,そうだったな」
水滴を拭っている小十郎から手拭いを取り上げ、手ずから丁寧に拭きとってあげる。すると、小十郎は僅かばかり困った表情を浮かべて「政宗様、」と窘めた。大方、主がやるべきことではないと言いたいのだろう。
「隠れ鬼は得意ですが、あまり小十郎を試してくださいますな」
「Ah?」
「貴方様が何処ぞに隠れられてしまうたびに貴方様をお探しする小十郎の気持ちも考えていただきたい」
「Ha!お前の手の中をすり抜けちまうほど遠くに隠れているつもりはねェぞ。俺の隠れ家はいつだってお前の手の届く範囲だろう?」
それくらいちゃんと計算済みだ。
悪戯っぽく笑ってそう答えてやる。
「まったく………貴方様というお人は」
両手を伸ばした政宗の意図を心得たように政宗のことを抱き寄せて腕の中に閉じ込めた小十郎は、眉間に皺を寄せて呆れたと言わんばかりに溜息をついた。
「いいんだよ、こいつも………そうだな、不器用な愛情表現ってヤツなんだから」
「愛情表現、ですか…。ならば小十郎は幸せと思うべきなのでしょうな」
「少なくとも俺は幸せだと思っているぜ?」


―――いつだって政宗は小十郎の手の届く範囲で見つけてくれるのを待っているのだ。



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