人生楽ありゃ苦もあるさ

日々のつれづれや大好きなものを力いっぱい叫ぶ代わりに書き綴っています。サイト更新情報や、時々BASARA二次創作(小政、家政メイン)も。 

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いい子、いい子。

羽織を肩に引っ掛け、政宗は渋い顔をしていた。包み込むようにして持つ湯呑みの中には薬湯が入っている。
射抜かんばかりの鋭さで睨みつけているそれは、幼少時の経験から大層苦いもので。
本当に飲まなきゃダメか?と今更ながら往生際悪く傍らの小十郎を見上げてみるが、そういえば昔からこういう時の彼は容赦なかったことを思い出した。
「良薬口に苦し、と申します」
「I know…」
幼少時の記憶とは根深いものだ。
「薬湯」イコール「苦い」という記憶一色に塗り潰されてしまっている。
天下の独眼竜がたかが薬湯のためにこれまでどれだけ悶絶してきたか。傍からすればそれこそ『たかが薬湯』だろうが、飲まねばならない当人は床上げを遅らせてでもいいから回避したいという、それこそ毎度情けない思いで一杯なのだ。
「飲んでいただかねば…お体が回復しません」
「たかが風邪、じゃねェかよ。ンなモン、寝てりゃあ治る」
「たかが風邪…とは政宗様、これは異なことを。季節の変わり目に体調を崩されては、たかが風邪と毎回侮られて臥せるのは貴方様なのですぞ?」
「…Shit!」
流石は竜の右目である。当たっているだけに反論の余地もない。
政宗はますます渋面を作り、往生際悪く「うーっ」と唸った。
そもそも。
幼い時分に疱瘡を患って一度彼岸をみている所為だろうか。小十郎に限らず、政宗の周囲に在る者達は、皆政宗の体調の変化に過敏すぎるくらいの反応を示す。己に近い位置にあればあるほど過保護傾向にあるのも、このあたりが発端だろうと思う。
しかし、大切に思ってくれるのは有難いが、極端すぎて時々煩わしい。
もちろん、口にはしないが。
「政宗様」
小十郎はなんとしてでも己にこの薬湯──薬湯は苦いのが相場と決まっている──を飲ませたいようだ。
そういえば、己がまだ幼名で呼ばれていた、そして小十郎はそんな己の傅役だった幼い頃。
やはりこんな攻防が何度もあったことを思い出した。
『イヤだ。薬湯は苦い』
『薬湯が苦いのは早く良くなるためです。我慢してお飲みなさい』
イヤだ、と頑として傅役の言葉に耳を貸さず、当時はまだ梵天丸と呼ばれていた政宗は、プイとそっぽを向いた。薬湯の入った湯呑みを目にするのも嫌だといわんばかりの態度だ。
『梵天丸様っ』
『風邪なんか気合いで治すから薬湯などいらんっ』
『何が“気合い”ですかっ!』
どんなに厳めしい顔つきで諭され──脅され、の間違いかもしれないが──ようがイヤなものはイヤだ、と首をふる。
分別がつかなかったぶんだけ今よりも小十郎に対して容赦なく我儘だったように思う。
どうあっても飲もうとしない子供に、とうとう根を上げたのか──いや、実際はそれも策略のうちで、後々とんでもねェ策士だと悟ったのだが──小十郎はふうと小さな溜息をひとつ零した。
『仕方ありませんな、』
『───?』
ひとりごちるように云って、小十郎は徐に懐から懐紙の包みを取り出した。政宗の視線が見慣れない包みに吸い寄せられるのを感じながら、もったいぶるように包みを広げてゆく。
これもまた生来好奇心が強い政宗の気を惹くための小十郎の技だ。
『小十郎?』
広げられた懐紙の上にころんと乗っていたのは、金平糖の粒だった。
京で流行という金平糖は、京から遠いこの奥州ではまだまだ珍しい菓子である。
子供という生き物は正直で、途端にパッと政宗の顔が輝いた。
『薬湯をお飲みになられるのならば、苦いのを我慢したご褒美に差し上げようと思うておりましたが…“気合い”で治されるならこちらは要りませんな?』
にこりと笑って、再び包もうとする小十郎を慌てて制し。
『小十郎!』
『どうなさいました、梵天丸様?』
『飲むっ!ちゃんと飲むから、そいつをくれっ』
『本当ですか』
政宗は一旦手にしている湯呑みに視線を落とし、記憶の中の『苦味』と格闘したが、それをふり切ると大きく頷いた。
そうして覚悟を決めると湯呑みを傾け、ひと思いに飲み干した。途中で止めてしまったら、あまりの苦さにせっかくの覚悟が萎えてしまうと思ったからだ。
湯呑みの中身を空けた政宗は、想像どおりの苦さに顔を顰めた。顰めながら、「飲んだぞ!」とばかりに小十郎へと湯呑みを突き出す。
『よう我慢なされました。ではご褒美に…お口をお開けください、梵天丸様』
小十郎の言葉に素直に従い、まるで母鳥が餌を運んでくるのを待つ雛鳥のように政宗は「あーん、」と口を大きく開けた。その舌先に小十郎が懐紙の包みから摘んだ金平糖をふた粒ほど乗せてくれる。
それまで苦味が勝っていた分だけ金平糖の優しい甘さが口いっぱいに広がり、政宗の表情が綻んだ。
『梵天丸様はよい子ですな』
そう云って政宗の頭を小十郎の大きな手が撫でてくれて───薬湯を飲もうとしない政宗に飲ませるための小十郎らしい飴と鞭の使い方だと思っても、それが子供心に嬉しかったのだ。
「Hey,小十郎」
「なんですか」
枕許に侍る小十郎は、政宗が薬湯を飲むのを見届けるまで梃子でも動くつもりはないらしい。
オイオイ、コイツを飲むまで主を見張るつもりか…と政宗は内心苦笑した。
「褒美はなんだ?」
「褒美?」
は?と小十郎が切れ長の瞳を緩く瞬かせる。
「薬湯は昔っから苦いモン…って相場で決まってるだろ?口直しの褒美がなきゃ俺、飲まねェぜ?」
しかも、とびっきり甘いヤツな。
ニヤリと笑うと、その仕種で得心がいったらしい小十郎は呆れたのか軽く己の額を押さえて。
「何を云い出すのかと思えば…また和子のようなことを、」
「どうすンだ?褒美はあるのか、ねェのか」
「しようのない…」
やれやれと溜息をついた小十郎は僅かに政宗の方へ躰をずらすと、やや上体を傾けて政宗の額に唇を添わせた。
「な…っ、」
その、明らかな意図を持った子供騙しに一瞬呆気にとられる。
「ご褒美の続きは苦さを我慢した後に差し上げましょう?」
「…Shit!」
一本取られたとばかりに政宗は渋面を作った。
小十郎はやはり───容赦のない男だ。



お題配布元:群青三メートル手前さま

2日目は風邪っぴき話。
筆頭は子供の頃から頑固者だっただけに、小十郎は飴と鞭の使い分けが上手いと思います。
まあ、飴も鞭も彼にとっては甘やかしの手段なんでしょうけど。

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