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人生楽ありゃ苦もあるさ

日々のつれづれや大好きなものを力いっぱい叫ぶ代わりに書き綴っています。サイト更新情報や、時々BASARA二次創作(小政、家政メイン)も。 

恋しさに、息が止まりそう~side政宗~

障子戸を開け放ち、仁王立ちになって草木が雨に濡れる庭園をじっと睨み据えながら、政宗は小さく舌打ちをした。
「ぼ、梵…」
背後に控えている成実は、政宗の背から発せられている『不機嫌オーラ』をまともに浴びる形で、均整のとれた体躯を小さく縮こまらせている。
尤も、これは近侍である成実だからこの程度で済んでいることであって、他の連中であれば竜の怒気をまともに浴びるなど耐えられずに尻尾を巻いて逃げていくのがオチだ。
文月の七日。今宵は七夕である。
なにかにつけ騒ぐことが好きな伊達軍である。当然情勢が許す限りという条件付きだが、七夕に託けて城内で酒宴が開かれるのが恒例だった。
厨をはじめとして、今宵の宴に向けて準備は着々と進んでいるようである。昨年のこの時期は羽州最上の伯父のちょっかいに遭って応戦中だったため流れてしまい、今年はそんな昨年の分もあって盛り上がるのは間違いないだろう。
ところが折悪しく、数日前から雨が降り続いていた。
これでは天上の彦星と織姫の一年ぶりの逢瀬も叶うまい。
だが、政宗にとって不機嫌の元はそこではない。風流人でもある政宗なので、もちろん星空の下で七夕の宴を楽しみたいところだが、別に宴自体は雨であろうと予定どおり行われるのでちっとも構わないのだ。
晴れていようと雨降りだろうと楽しめればそれでよい。
問題はそこではない。
(小十郎…)
雨が降り出した数日前より更に遡ること少し前から、政宗は己が右目である小十郎を支城へ遣いに出していた。
本来小十郎を遣いとして立たせる必要はなかったのだが、先頃の合戦で新たに伊達領となった場所でもあるので、最初が肝心と睨みを利かせるために敢えて行かせたのだ。無論、それは小十郎の意向もあってのことである。
七日は七夕の宴が催されることを小十郎も承知しているので、それまでには帰城することになっていた。
そこへこの雨。城で足止めを喰らってしまったのだ。
「Ah~,雨止まねェなァ…」
「そうだ、ね。でもまあ、夜の酒宴はみんな楽しみにしてるし。小十兄が間に合いそうもないのが残念だけど……梵?」
心配そうに背後から成実が窺っている。
この有様では小十郎は戻ってこられまい。
じっと睨み据える不機嫌そうな貌から一転、今度はもの憂げに溜息をついた。


夕闇が迫っても雨は一向に止む気配はなく、織姫の涙雨だと口々に称しながら酒宴は盛大に催された。
伊達軍の酒宴は基本的に無礼講である。それは政宗自身が堅苦しい場を嫌う所為もあるが、上も下も関係なく伊達軍を構成する総ての者に楽しんでもらいたいという配慮もあった。
伊達軍の結束の強さはこういう場から育まれているのだ。
政宗は大将として広間の上座に座し、多くの家臣から酌を受けていた。その一人一人に返杯し、また声を掛ける。それだけでも充分な酒量だが、伊達の男たちはこの程度で潰れたりはしない。
まして、政宗は傅役であった小十郎仕込みなのである。
そんな彼の周りには成実や鬼庭綱元、原田宗時といった重臣がいつもどおり固めていた。
終始明るく振る舞ってはいるものの、思い出したように時折周囲を見回しては浮かぬ表情に政宗がなるのは、やはりこの場に小十郎がいない所為だろう。
宴もたけなわとなって誰もが周囲など気にしなくなった頃を見計らい、政宗は億劫そうに腰を上げた。
主など早々に中座した方が下の者にとってはいいのだ。
「梵?」
「悪ィ、成。なんか悪酔いしちまったみてェだから下がるわ」
「悪酔いって…大丈夫なの?部屋までひとりで戻れる?」
「大丈夫だ。俺に構わずお前らは楽しんでろよ」
そう答えた政宗は掌をひらひら振って宴席を中座し、そのまま自室へ引っ込んだ。
どうせ主が不在となっても、酒宴は宵闇まで続くのだろう。
とはいえ、自室に戻っても一人では何をする気にもなれない。
小十郎が傍にいればこちらはこちらで呑み直すことも雰囲気が良ければそのまま閨に、ということも考えられたが、小十郎は支城で足止めを喰らっていて、政宗がどんなに望もうと傍に在ることは叶わない。
ひとり、だ。
ただただひとりでぼんやりと雨音を聞いているだけで憂鬱になってくる。
どうして、今傍にいないのだろう。
この雨の中早く帰って来いよと願うのは、彼の身を案じれば手前勝手なことだと充分に理解している。
けれど。
顔を見ていないのはもう何日だ?
「小十郎…」
音にしてしまえば、なおのこと恋しさが募るばかりで。
「Ah~なんか息が上手くできねェ…」
どうして、今傍にいないのだろう。
負の思考が螺旋を描きだそうとしたその時。
「政宗様」
己付きの小姓が障子戸の向こう側で控え目に声をかけてきた。
我儘な主の要求を文句ひとつ云わずに見事応える正確さと併せ持つ心細やかさ、見かけによらず剛毅なところが気に入っていて、以前から政宗が目をかけている小姓だ。
「お休みのところ申し訳ありません」
「どうした?せっかくの酒宴なんだ。俺に構わずに楽しんでろと云っただろう」
「そういう訳には参りませぬ。私は政宗様の身の回りのお世話を仰せつかっておりますゆえ」
小姓の言葉に思わず苦笑を浮かべる。難を挙げるとすれば、少々気真面目すぎるところか。
「然様なことは良いのです。政宗様、片倉様がお戻りにございます」
「なに?小十郎が戻っただと」
「ただいま表玄関に。整い次第此方にお渡りになると仰っておりますが…、」
「No problem!構うな、俺の方から出向く」
すぱん、と勢いよく障子を引く。
「ま、政宗様?!」
居ても立ってもいられずに長い廊下を走りだした主の背を、驚いたために一瞬の間があった小姓が慌てて追いかける頃には、政宗は小姓の視界から消えていたのだった。

ああ、早くしねェと。
息が止まりそうだ───。



お題配布元:color seasonさま

明日は七夕なので、こういうイベントものは時機を逸せず書かないとっ!と勢い(だけ)で書いてみました。
ちょうどお題サイトさまで素敵なお題を見つけたことですしね。
勢いに乗じていたら少し長くなってしまったので、ふたつに分けてみました。
今日はその前半部。筆頭視点です。
傍にいない右目が恋しくて、恋しくて。
息もできないほど恋しがっています。

七夕の明日は、後半部小十郎視点です。



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