人生楽ありゃ苦もあるさ

日々のつれづれや大好きなものを力いっぱい叫ぶ代わりに書き綴っています。サイト更新情報や、時々BASARA二次創作(小政、家政メイン)も。 

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5.夜食

「おばちゃん、ちょっと厨房貸して貰ってもいいかな?」
品行方正な寮監生の顔を持つヒューズは、教官だけでなく事務官からの信頼も厚い。故に、普通の候補生では門前払いになる頼み事でも、大抵の場合において融通を利かせてもらえる。
そんなヒューズの本日の頼み事は、寮内の食堂の厨房を借りることだった。
夕食の規定時間はとっくに過ぎているため、食堂は閑散としている。片付けのためか、僅かに厨房の明かりが点いているのみだ。
「何だい?こんな時間に」
ヒューズが入寮するずっと前から厨房をとり仕切っている肝っ玉婦人は、背後からこっそりと姿を現したヒューズを見るや、洗い物をする手を止めて不思議そうに訊ねた。
「夕食時間にはきちんといたと思ったけどねえ」
さては、もうお腹が空いたのかい?と呆れたように続けられ、ヒューズは苦笑いしつつそれを否定した。
「俺はしっかりいただいたけどね。同室者がそろそろお腹を空かせる頃かなーなんて思ってさ」
「同室というと、あの可愛らしい子かい?ああ、そう云えば今日はいつもより食が細いようだったねえ」
彼女は寮生のことをよく見ていた。特にヒューズの同室者など、当人は無自覚だろうがいろいろな意味で目立つ存在なので、彼女も夕食時の様子をすぐに思い出したらしい。
「多分、満足に食べていないだろうからさ。そんな訳でちょっと夜食を、ね」
「他ならぬヒューズ坊やの頼みなら、しょうがないねぇ」
坊や呼ばわりされるのは正直いただけないのだが、彼女からすれば自分達の年代など皆ひと纏めに<坊や>なのだろうとこの際細かいことは目を瞑って。
そんなヒューズの内心など知る由もなく、彼女は『内緒だからね』と笑い、二つ返事で快く自分の城をヒューズに明け渡してくれたのだった。

確か、今日のロイのクラスは、数十キロの重装備を身に着けての行軍演習だった筈だ。自分も経験したが、あれは相当堪える演習だったとヒューズは苦い思いでふり返った。数十キロの重装備はそれだけでも足腰にクるし、体力も消耗する。丸々一日を費やす演習が終了する頃には、極度の疲労で動くことすら儘ならない有様となるのだ。極度の疲労に達した状態で寮に帰り着いた寮生達が、まともに食欲が湧こう筈がない。とはいっても、食欲が湧こうが湧くまいが食事の時間は規定されていて、それを逃せばたとえその後どんなにお腹が空いたとしても、翌朝まで空きっ腹を抱えていなければならないという食べ盛りの彼等にとってある意味辛い現実が待っている。それはご免被りたいので、無理矢理にでも食べるのだが。
(あの演習の後は、流石に俺も食えなかったもんなぁ…。まあ、あの直後に普通に食える奴なんて、いねぇと思うけど)
疲労困憊で食事など受け付けないのに、無理矢理胃の中に流し込んで挙げ句に吐いて。当時のヒューズでさえそんな具合だったのだ。おそらくロイも似たようなものだっただろう。どうせ、まともに食べてはいないのだ。血の気も失せた真っ青な顔をして無理にでも食事を食べていたロイの姿を思い出すにつけ、痛々しく思うヒューズである。
トレーに乗せられたのは、リゾットとホットミルク。器用とはいえ、所詮ヒューズが作れるのはこの程度の簡単なものだ。尤も、空きっ腹の胃に負担を掛けず、適度に腹持ちするものとしては丁度良いだろう。
「ロイ?」
ヒューズが出来立ての夜食と共に部屋に戻ると、ロイは既に壁際のベッドに潜り込んでいた。いつもなら遅くまで本を読み耽っている筈の彼が、今日は早々にベッドに潜り込んでしまっている。行軍演習の疲れもあるだろうが、それよりも寧ろそれは不貞寝に近いのかもしれない。起きて無駄に空腹を覚えるなら、さっさと寝てしまえのクチだ。
「ローイ」
もぞもぞと布団の山が動く。満足に食べられなかったのだ。お腹が空いて眠れないだろう。彼の心中を察し、ヒューズはトレーを持ったまま苦笑した。
「ロイ、腹が減って眠れねえんだろ?」
くぐもった小さな声が『煩い』と返してくる。ヒューズはいよいよ苦笑を濃くし、トレーを持たない方の手を布団に掛け、揺すった。
「なあ、ロイ。ちょっと起きてみろよ」
「煩い。お前なんかに付き合うような気分ではない」
空腹のため眠れない。その所為か苛立って機嫌も悪い。丸わかりな反応である。けれど、ヒューズも負けてはいなかった。布団の中から顔も出さない相手に煩いと冷たく一蹴されようが、気にせず尚も盛り上がった布団の山を揺する。
「おーい、ローイ」
「煩い!」
ヒューズのちょっかいにとうとう我慢の限界に達したロイは、ガバッと飛び起きた。となれば、最早ヒューズの勝ちである。露骨に不機嫌な相手に対し、『お?やっと起きたか』とばかりにニッコリ笑顔を向けた。そして、空腹の所為でいつにもまして短気になっている相手が容赦ない舌鋒を披露するより先に、ロイの前に温かな夜食が乗せられたトレーを置いた。
まさに機先を制す、である。
完全に不意を衝かれた恰好のロイは、突然出てきた食事に機嫌の悪さも忘れて黒い瞳をぱちくりと瞬かせた。
「行軍演習後に即、晩メシじゃあな。まともに食えなかっただろ?」
ロイの視線が眼前のトレーに釘付けになっているのが、可愛らしくも可笑しい。
「俺も経験者だから、よーく判るって。俺もやっぱり空きっ腹抱えて眠れなくてさ。で、当時同室だったヤツが隠し持っていたチョコを恵んでもらって一晩凌いだワケよ。ま、たいしたモン作れなかったけど、腹の足しにはなるだろ。遠慮せず食えよ」
遠慮するなと云っても、ロイはすんなり警戒心を解かない。空腹でしょうがないだろうに、それでも弱味は見せるものかと強情を張っているのか。
これはまるっきり野生動物の餌付けだな、などとロイが知ったら怒髪天を衝きそうなことをつい思ってしまった。
「ほら、いいから。温かいうちに食えって」
ホカホカのリゾットとホットミルクを前に小さく唸ったロイは、上目遣いにヒューズを見上げ、それから添えられたスプーンを手に取ってリゾットを口に運び始めた。漸く食べてくれたロイをヒューズは傍らで満足そうに見守る。
なにぶん食べ盛りだ。ロイはすぐに綺麗に平らげてしまい、空になった器を静かにトレーに置くとやっとひと心地ついたのか、ホッと息を洩らした。
「ヒューズ」
「あん?」
食べ終わったのなら早々に片付けてこようとトレーを持ち上げたヒューズをロイが呼び止めた。
「その…美味しかった。ご馳走さま」
素なのだろうか。ロイは目許を和ませ、柔らかな笑顔を浮かべていた。いつものツンと澄ました顔ではない。滅多にお目に掛かれないだろうそれは、ヒューズの思考を硬直させるには充分な威力を発揮した。
「ヒューズ?」
怪訝そうに首を傾げられ、慌ててヒューズは取り繕うように苦笑を浮かべた。念願叶ってやっと野生動物を手懐けた時って、こんな高揚感───というより優越感を覚えるものだろうか。
「おい、ヒューズ?」
相変わらずロイは怪訝そうに見つめるばかりだが。
(とりあえず、餌付けは成功…って?)
そんな彼を後目に、ヒューズは心の中で密かにガッツポーズを作ったのだった。


士官学校寮100室巡り by同室同盟

久しぶりのお題消化です。
お昼時にいきなりネタが降ってきたので…そのまま一気に(苦笑)。
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