人生楽ありゃ苦もあるさ

日々のつれづれや大好きなものを力いっぱい叫ぶ代わりに書き綴っています。サイト更新情報や、時々BASARA二次創作(小政、家政メイン)も。 

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チョコレート風呂【ハボロイSS】

キッチンの方から何とはなしに漂ってくる甘ったるい匂いにロイは思わず顔を顰めた。
「一体、お前は何をやっているんだ?人の家のキッチンで」
人の家のキッチンで…などと偉そうに主張してはいるが、実際にロイがこのキッチンに立つことは殆どない。年に一度───いや、それすらも怪しいところだ。
不精者の家主に代わりこのキッチンに立つのは、ハボックの役目だった。
「何って…ご覧のとおりチョコレートを溶かしてるんスよ。今年もまた処理に困るほど大量に貰ってきてくれましたからねぇ」
どこかの誰かサンが。
事実半分厭味半分な物云いに、ロイもわざとらしく呆れたような溜息を吐くと、辛辣な答えで応酬してやった。
「それは貰いたくても貰えない者の僻みかね?ハボック少尉」
「どう解釈して下さっても結構ッス」
この時期、女性が男性にチョコレートを贈るという風習がいつ頃から確立したのかは判らないが、今ではそれは女性にとっての一大イベントと化していた。同時に貰う側──つまり男性の方だが──にとっては、チョコレートの数がそのまま男としてのステータスシンボルに直結するという、ある意味嫌な時期でもあった。男の矜持と面目を保つために、たかがチョコレートの数に一喜一憂するのだが、幸いロイは未だ嘗て一度も男の矜持とやらを脅かされたことはなかった。
直属の部下達がどう思おうが、ロイは女性から人気がある。整った甘い顔立ちに、軍内でも頭一つ抜けた出世株で将来有望なエリート将校。おまけに筋金入りのフェミニストとくれば、女性達にとっては理想の王子様だ。実態がどれほど王子様から遠のいていようと──そして、それを直属の部下達がどんなに声高に唱えようと──何も知らない彼女達にとってそれは不動だった。
そんな感じなので。この日とばかりに彼女達から贈られるチョコレートの数は尋常ではない。執務室はチョコレートで溢れ返り、どうにも身の置き場がないので段ボール箱詰めして緊急避難的に仮眠室へ置いたりするのだが、終いにはそれでも収まらなくなって、結局こうして他人様宛てのチョコレートが大量に詰まった段ボール箱の山を彼の自宅に運ぶのは、やはりハボックの役目だった。
「それで。こんな大量にチョコレートを溶かして何をやろうというのだ?」
「ああ…それはッスね、チョコレート風呂でもやってみようかと思って」
「チョコレート風呂?」
初めて聞く単語にロイはきょとんとなった。
「チョコレート風呂って…何だ、それは」
「ミルク風呂とか酒風呂とかあるでしょ?あれのチョコレート版です。何処だかの温泉が最近始めて、大人気らしいッスよ。これだけの量があれば、充分できるでしょ」
ハボックの云うところの<チョコレート風呂>を想像し、ロイは露骨に顔を顰めた。そのあまりにも子供っぽい仕種にハボックがプッと噴き出す。
「肌がスベスベになるそうッスよ。美肌効果。本当は純度の高いカカオがいいらしいんスけどね。まぁ、アンタ宛てのチョコレートなら高級ばかりだろうし、大丈夫かなと」
「そ、そんなのを風呂に入れるな!」
「そんなこと云ったって、これだけの量をどう始末する気ですか!」
食べるったって限度っていうモンがあるでしょ、毎年毎年。
至極当然なことを頭上から畳み掛けるように口にされ、ロイは返す言葉を詰まらせた。
「だ、だからってだな。男に美肌効果を狙っても意味ないだろうが」
「大アリです!」
ハボックはキッパリと答える。あまりにキッパリと答えられてしまったので、逆にロイの方が狼狽える有様だ。
「断然お肌スベスベ滑らかの方がイイに決まってるじゃないッスか!益々アンタの抱き心地が良くなって、俺が喜びます!」
「ハボック!」
そんなことを恥ずかしげもなく主張され、今度こそロイは顔を真っ赤にした。羞恥と怒りとが綯い交ぜになって声を荒げるロイだったが、公私共にそんな彼に慣れきってしまっているハボックは、少しも堪えていない。それどころか、ハイハイ…と駄々を捏ねる子供をあやす大人よろしくロイの頭を撫でていたりするのだ。それがまた癪に障って怒り出すという悪循環を引き起こしていたのだが、ハボックは気にも留めない。
「いいじゃないッスか。どうせ掃除するのは俺なんだし?」
耳許でクスクス笑いとともに囁かれても。
「俺、まだ肝心のアンタからチョコ貰ってないんだから。ね?」
つまりは、チョコレート風呂とやらでロイ自身をチョコレート塗れにして、それを自分へ贈る気でいるらしい。この時期になるといつも「量より質」を主張する──ロイにとっては、まるっきり負け犬の遠吠えにしか聞こえないのだが──ハボックにとって、それはさぞや高級なことだろう。高級どころか、分不相応だろうとロイは思った。
(何故なら、この私自身をチョコ代わりに求めるからだ。このバカ犬め)
心の中で図体ばかりデカイ男を思うさま罵って、ロイは俯いた。すると、急に黙り込んだロイを訝しく思ったのかハボックがおずおずと声を掛けてくる。
「えーと…その、大佐?」
もしかして、機嫌右肩下がりに急降下ですか?
などと戸惑い気味に続く声に、心の中で(もちろんだとも!)と答えてやった。
「…ハボック少尉」
普段よりワントーン低い声で階級付で彼の名を呼ぶ。長年軍属である条件反射の所為か、上官の声に猫背気味の背を正したハボックは、ごくりと喉を鳴らすとロイの次の言葉を待った。
殊更ゆっくりと顔をあげ、嫣然と微笑みかける。しかし、笑っているのは顔の筋肉だけで、漆黒の瞳は少しも笑っていないのだった。
美人は怒ると般若になる。
「レアとミディアムとウェルダン。どれがいいかね?」
「…は?」
背筋が凍りそうな怖ろしいばかりの微笑を浮かべ、そんな物騒なことを云いながらロイが着替えも済ませていなかった軍服のポケットから取り出したものは、彼を焔の錬金術師たらしめる発火布で。
「今ならお前の好みの焼き加減で仕上げてやるぞ?」
さあ、どれにする?
嫣然と微笑みかけられても。
ヒクリとハボックの口許が引き攣る。
「えーと…どれも丁重にご遠慮、というのは?」
「却下だ」


ささやかなハボックの野望とともに中途半端に溶かされた大量のチョコレートのその後の処遇については────謎のまま判らないのだった。

最近イベントものに便乗して…と考えてはいても、気づくといつも終わっていて(苦笑)。
今日も今日とてバレンタインデーだというのに、何もせずにいるのも勿体ない!ということで、お昼休み1時間1本勝負のハボロイSS。
昨年はバレンタインデーが終わった後にバレンタイン仕様のハボロイもどきを書いたんですが、今年はどうにか間に合った模様。
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