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人生楽ありゃ苦もあるさ

日々のつれづれや大好きなものを力いっぱい叫ぶ代わりに書き綴っています。サイト更新情報や、時々BASARA二次創作(小政、家政メイン)も。 

とろりと溶ける【戦国BASARA:小政】

茶室に呼び出された小十郎が大きな躰を屈めてにじり口から中へと入ると、静謐な狭い空間の中で政宗は茶を点てていた。
茶を点てる茶筅の音に聞き入りつつ居住まいを正した小十郎は、主の対面で爪の先まで凛とした雅な所作に魅入る。
「そろそろ来る頃だと思っていた」
グッドタイミングだと口許を綻ばせ、小十郎の前に茶碗を置く。
「頂戴いたします」
頭を下げてから茶碗を取ろうとした小十郎だったが、ストップ!と制されてしまった。有難く頂こうと思っていたところを制されるとは思わなかったので、思わず“どうして?”という表情をしてしまう。勿論主の為すことに、基本的には文句を言えない立場にあるのだが。
「メインはこっちだ」
茶碗の隣にす、と菓子を添えられた。茶室に呼んでおきながら、主たる振舞いは茶ではなく菓子だという。
懐紙の上に上品に乗せられているのは褐色の小さな菓子だ。初めて見るそれに、小十郎はぱちりと双眸を瞬かせた。
「政宗様、これは…?」
「南蛮でいうところのショコレイト…っていうヤツだ」
「ショコ…?」
たどたどしく政宗の言葉を辿ろうとする小十郎を見つめて一層笑みを深めると、政宗は「ショコレイト」と今度は小十郎に聞き取れるようにゆっくりと繰り返してくれる。
ショコレイト―――それは初めて耳にする柔らかな響きだった。
「南蛮では………好いた相手にコイツをやるという風習があるんだそうだ」
「―――はあ、」
「あア?なんだよ、その気ィ抜けた返事はよ。つまりその………そういうことなんだって察しろ、バカこじゅ」
目許に朱を刷いた政宗が唇を尖らせて文句を言う。直截な物言いを避けたのは、おそらく―――照れたからだろう。
「政宗様のお心を汲み取れず粗相をいたしたことお詫びいたします。こちら、小十郎が頂いても?」
「改めて訊くまでもねェ。お前のために作った」
笑みが綻ぶ。
なるほど、最近政宗の部屋に南蛮の書物がやたら溢れていたのもこのためか。
小十郎は長く政宗の傍で生きていながら生憎と南蛮のことは不得手で、書物に書かれていることもそれが何の用途のものかさっぱりわからない。なので、ここ数日部屋に籠ってそれこそ一心不乱に書物を読み耽っている政宗を見るにつけ、没頭しすぎて体調を崩しはしまいか――政宗は凝り性の所為か、幼少の頃から一つのことに没頭するとその他が疎かになる傾向があった――心配をしていたのだ。
更に聞けば、このショコレイトとやら、日ノ本で手に入れることのできない材料も必要だとのことで、そのため長曾我部元親経由で南蛮商人から手に入れたそうだ。見返りに何ぞ求められたらしいが、政宗は「小十郎のためなんだからたいしたことはねェ」と笑っていた。
政宗手ずから作ってくれたということだけでもありがたいのに、自分のためにそこまでしてくれたのかと思うと申し訳なくて、この場で食べてしまうのが忍びなくなる。
政宗の優しさに浴していいものだろうか。
じっとショコレイトを見つめる小十郎に向かって、政宗が「どうした?」と声を掛けてきた。
手ずから作ってくれたものを食べてしまうのは勿体ないとついつい思ってしまうが、政宗は自身の前で食べてくれることを望み、それを何よりも喜んでくれる。勿論、小十郎も政宗が喜ぶ姿を見ることが何よりも嬉しい。
「ありがとうございます、政宗様。小十郎は果報者にございます」
彼の気持ちが詰まったショコレイトをありがたく頂くことにする。
懐紙に添えられた黒文字を使って褐色の菓子を口に運んだ。ふわりと甘い香りが鼻腔を擽る。
口に入れた瞬間にほろりと溶けてゆく様は、まるで奥州に降る新雪のようだ。
ひとつめは甘さを楽しむ間もなく、舌の上ですぐに蕩けてしまった。なので、続けてもうひとつ口に運ぶ。
瞳を閉じ、黙して味わう。
柔らかな感触。甘いと言っても女子が好むような甘さではない。小十郎が好みそうな控えめで上品な甘さは、政宗の匙加減によるもの。
「どうだ、小十郎?」
作り手として味は気になるところなのか、政宗が窺うように訊いてくる。勿論、美味い以外の感想はどこを探しても見当たらない。
「ショコレイトなるものを初めて食べましたが…柔らかくて実に美味しいものですな」
小十郎の感想を聞いてホッとしたのか、政宗は相好を崩した。何度も味見をしているだろうに、一番食べてもらいたい相手に味の感想を聞くまでは、やはり気を抜けなかったのかもしれない。何事も完璧を好む政宗らしい。
そんな政宗の可愛らしさに微笑み、小十郎は言葉を続けた。
「………まるで政宗様のようにございます」
「―――Say what?」
「触れればとろりと甘く溶けてしまう―――政宗様もそうでしょう?」
「な…っ、」
わざと比喩的に言ってみたのだが、聡い彼は小十郎が何を言いたかったのかすぐに察したらしい。
さあっと顔を赤らめる――項のあたりまで真っ赤だ――と、苦しまぎれに小十郎を睨みつけたのだった。


お題配布元:color seasonさま

そうだ、14日はバレンタインデーだ!と思って慌てて書き出しました(苦笑)。
季節モノというか行事モノは機を逸しては駄目なので、浮かんだネタを勢いだけで書き綴っています。本当に。
たぶん何日かして見直すと、思いっきり書き直したい衝動に駆られると思います。
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