人生楽ありゃ苦もあるさ

日々のつれづれや大好きなものを力いっぱい叫ぶ代わりに書き綴っています。サイト更新情報や、時々BASARA二次創作(小政、家政メイン)も。 

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もらった想いにそっと微笑む

前日の夕方から強風が吹き荒れた所為か、境内は落ちた枝葉でもの凄い惨状となっていた。
竹箒を手にさして広くもない境内を前にした小十郎は、無意識のうちに深々と溜息を吐いた。絶望的な気分である。
龍神を祀る鳴神神社は遡ること平安時代からこの土地に鎮座する小さな社である。小さな社であるので、当然のことながら宮司は小十郎一人。この社の管理も整美も全て小十郎一人で行わなければならない。
つまりは眼前に広がる強風が吹き荒れた後のこの惨状を片付けるのは小十郎の役目、というわけだ。
三十路目前とはいえ辛うじてまだ二十代の小十郎である。何が楽しくて片田舎の神社の宮司をしているのかとも思うだろうが、この年齢で自給自足上等!の隠遁者のような生活を楽しんでいる小十郎本人にとっては何の不満もない。
―――不満はないのだが、こういうときは人手不足にちょっと泣きたくはなる。
「…ったく、どっから飛んできやがるんだか」
ぶつぶつ文句を垂れながら竹箒を動かす。境内にある樹木は殆ど葉を落としてしまっていて、勿論昨夜の強風の影響によるものもあるだろうが、境内の樹木の葉ばかりではなく、どちらかといえば他所から枝葉が昨夜の強風に乗って此処に吹き溜まった感じだ。
眉間に峡谷のような深い皺を刻ませた凄みのある表情でせっせと竹箒を動かす姿は、物言わぬ落ち葉に対して喧嘩を売っているようでもあり、少しばかり滑稽に映るのだが、如何せん当人は全く気付いていなかった。
(いっそのこと風でこいつら全部他所に吹き飛ばされちまえばいいのに)
畑の堆肥になるのであればまだ使い道もあっただろうが、この種の葉は油分が多すぎて乾燥させても堆肥には向かないのだ。
掃いても掃いても一向に綺麗にならない境内――一人でやっているのだから仕方がない――にうんざりとしてきたところで、背後から「小十郎!」と声がかかった。
「政宗さま」
柔らかな笑みを浮かべ落ち葉を踏み締めて近づいてくる姿を目にすると、小十郎のやさぐれた心が不思議と鎮まった。そのまま眩しそうに瞳を細め、小十郎は竹箒を手にそのひとを迎える。
今どきの服にほっそりとした身を包んだ隻眼の青年―――名を〈政宗〉という。人の姿をしているが、実は鳴神神社の御祭神たる龍神である。
小十郎は三歳の時まで景綱という名があった。今も戸籍上は景綱という名なのだろうが、〈小十郎〉という名の方が定着している。片倉小十郎―――政宗から与えられたその名の方が最初からそうであったみたいに小十郎の中でしっくりと馴染んでいた。
〈小十郎〉というのは、元々は政宗を御祭神として祀る鳴神神社を開いた片倉の御先祖の名である。社を護る宮司は代々片倉の男子の中から御祭神たる政宗によって選ばれ、宮司の証として初代と同じ〈小十郎〉という名を与えられた。
先代は小十郎の祖父であったが、小十郎が三歳の時に名を譲っている。将来は小十郎もまた次代にこの名を譲らねばならないのだが、馴染んだこの名を片倉の血を引く人間とはいえ自分以外の者に譲るのは正直面白くない。できることならこの名を抱いたまま土に還りたいと思うけれど、同時にそれは赦されないのだということも理解していた。
〈小十郎〉という名に対する執着はおそらく自分に限ったことではない。これまでも、そしてこれからも片倉小十郎の血を引く片倉の男子である限りずっと執着するのだろう。
なぜならそれこそが政宗に選ばれた唯一無二の証となるから。
「Gee,ちっとも綺麗にならねェな」
「仕方ありません。小十郎一人でやっていますし」
「Hum,俺が手伝ってやろうか?これくらい俺の力で吹っ飛ばせるぜ」
龍神の本分は“水”ではあるが、その力を借りれば、この程度の広さの境内の落ち葉など確かに一掃できるだろう。
「竜のお力を斯様なことにお使いなされますな。政宗様のそのお気持ちだけで小十郎は充分にございます」
それまでぶつぶつと散々文句を垂れていたくせに、決して楽な方向へは流されない。根が真面目で頭が硬いのは代々の小十郎に共通したことで、最早“片倉品質”なのかもしれなかった。
「Ha,お前のことだ。そう言うと思ったぜ。まあいいさ。だが、いい加減休憩したらどうだ?そんな凄みのあるツラで境内を掃いていたって、相手が落ち葉じゃちっとも伝わらねェだろうよ」
「―――っ?!そんなに小十郎は凄んでおりました、か」
どんな形相で落ち葉を掃いていたかを政宗に指摘され、恥ずかしくて今更ながらに顔を赤くする。そんな小十郎を見、政宗は「してたしてた」と笑いながらご丁寧にも顔真似まで披露してくれた。本当に居た堪れない。
「Ha-ha!そういうお前もcuteだぜ、小十郎」
「……………、」
「ほら、もういいから少し休め」
小十郎から竹箒を取り上げて手近な幹に立てかけると、政宗は小十郎の腕に自身の腕を絡めてきた。
「そういえばもうすぐ“バレンタイン”だよな」
人の世に慣れきっている龍神様は現代のイベントごとにも勿論精通していた。正月に始まり、節分だのバレンタインデー、ホワイトデー、ハロウィンやクリスマスに至るまで和洋折衷なんでもござれな勢いでイベントがあるたびに楽しみたがる。
そういえばもうすぐバレンタインデーだった。都会であれば正月気分が抜けると、はやバレンタイン商戦に突入してデパートもチョコレート一色になるところだろうが、如何せんこのような片田舎ではのんびりとしたものだ。自分には関係ないことと興味がなかったことも手伝って、小十郎はつい最近までそのことをすっかり忘れていた。
「小十郎はチョコを貰ったのか?」
「小十郎はご覧のとおりの朴念仁ゆえ―――」
貰うわけがないだろうと暗に示す。貰う予定もない。
「Why?一個もか?」
驚いたと言わんばかりに竜眼を見開き、政宗が訊く。確認されるまでもなく、本当に一個も貰ってはいない。
一応数日前に社の近くにある女子高の生徒から調理クラブで作った試作品だというチョコレートを貰ったが――それでバレンタインデーが近いと思い出したのだ――、あれは本命にあげる前の毒見役とも呼べるものだったのでカウントするのは些か難があるだろう。
Really?と政宗にしては珍しく執拗に訊いてくる。誓って嘘は言っていないと肯くと、今度は急に不機嫌になってしまった。不機嫌、というよりも憤慨しているのだろうか。
「Shit!どいつもこいつも目を二つも揃えておきながら節穴かよっ。俺の小十郎はこんなにもイイ男だっていうのによっ」
どうやら政宗は小十郎が一個もチョコレートを貰っていないことに対して憤慨しているらしい。プリプリと怒っている竜を横目に小十郎は苦笑する。
貰わなければ怒り、貰えば貰ったで今度はヤキモチを焼くのだから可愛らしい竜である。
ちなみに政宗のヤキモチ焼きは相当なもので、初代小十郎が妻を娶ると言い出した時には嫉妬のあまり鎮座する村を丸ごと水没させようとしたらしい。本人は昔の話だがなと笑いながら言っていたが、彼の性はそういう怖ろしいものも秘めていて、本当は“可愛らしい”などと一括りにしてはいけないのかもしれない。
「All right.俺の小十郎がチョコレートを一個も貰えねェってのは沽券に拘わる。ちょうど良かった、今日のおやつにガトーショコラを作ったんだ」
えへん、と胸を張って政宗が告げた。勢いに負けて「はあ、」と肯き返してしまう。
「ブラウニーにしようか迷ったんだがな。結構美味くできたぞ」
そういえば今日の政宗はずっと台所に籠りきりだった。数日前には通販サイトで頼んでいたらしいケーキの材料が一式届いていたから何事かやらかすなとは思っていたが……そうか、その伏線だったか。
政宗が作ったガトーショコラ。間違いなく美味いだろう。
好奇心旺盛な政宗は当代になって料理に興味を示し、見よう見真似で台所に立つようになった。最初は庖丁を持たせるのも危なっかしくてヒヤヒヤしたものだが、あっという間に料理の腕が上達して今では玄人の域と言っても過言ではないほどの腕前だ。玄人はだしの龍神など聞いたこともないが。
「Hurry!」
早くしろと急かす政宗に連れられ、小十郎は母屋へと戻った。


ダイニングチェアに座らされた小十郎の前に、上品に切り分けられたガトーショコラが皿に乗せられて出てくる。
「さあ、食え」
「―――は、はあ」
当該菓子職人は対面に座って頬杖をつき、小十郎が食する様を注視している。そのようにじっくりと見つめられると舌にのせて味わうこともできないではないか。
フォークで小さく切り崩して口へと運ぶ。目の前には「どうだ?」と反応を窺う政宗の瞳。
「小十郎?」
「美味しいです。しっとりと濃厚で、でも重た過ぎねえ。甘さも然程ではないから小十郎の口によく合いますよ」
「本当か?」
「ええ、本当に美味しいです。政宗さま、此方…1ホール丸ごと小十郎がいただいてもよろしいので?」
「オ、オウ。勿論だ。お前のために作ったんだからな」
ありがとうございますと礼を述べてから、またひとくち口に運ぶ。口の中でほろりと溶ける甘さが堪らない。
本当に美味そうに食うなア…とガトーショコラを食べる小十郎を見ながら政宗は言った。
政宗が言うには代々の小十郎は皆、美味そうに物を食べるらしい。自分のことなので小十郎にはよくわからないが、どうやら小十郎もその例に洩れないようだ。美味そうに食事をする姿を見ていると俺まで胎が減る、などどいつも冗談めかして彼は言う。
彼の糧は人間と同じではない。
龍神である政宗の糧は人の気―――精気だ。それも小十郎の精気以外は受け付けない。
「食べてみますか?美味いですよ、濃厚で」
「Ah?お前、俺が人間の食いものを必要としねェことくらいわかってんだろ」
「ええ、だから―――」
またひとくち口に運んだあと立ち上がった小十郎は身を乗り出して、きょとんとしている対面の政宗の頤に手を添えて上向かせた。
こじゅうろう?と告げようとする声が唇を重ねることでそのまま飲み込まれていく。代わりにふ、と甘い吐息が零れ落ちた。
常は涼しげな政宗の目許が濡れて色香を孕む。
「Shit!甘ェ」
唇を離した途端にそんな悪態を吐かれた。自分で作ったものだろうにと苦笑するが、頬を染めているあたり照れ隠しだろう。
ああ、やはり可愛らしい。
「美味い、でしょう?」
にこりと微笑んで問いかければ、上目遣いに口を尖らせた政宗は降参とばかりに首肯した。
「―――Yeah.濃厚で甘くて………堪らねェ」
だから、と政宗の腕が小十郎の首裏に絡みつく。
「もっと寄越せ、小十郎」
「竜の―――お望みのままに」


――――――Happy Valentine!



お題配布元:color seasonさま


バレンタインデーということで。
今年はバレンタイン小政は時間的に書けないなあと思っていたんですが、やっぱりこういうイベントごとは書かないとね!と勢いだけで書いてみました。宮司小十郎×龍神政宗。
Pixivにアップしたんですが、こちらにもアップしておきます。
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