人生楽ありゃ苦もあるさ

日々のつれづれや大好きなものを力いっぱい叫ぶ代わりに書き綴っています。サイト更新情報や、時々BASARA二次創作(小政、家政メイン)も。 

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6.脱走

同室者がなにやら悪事を企んでいるらしい。
素知らぬフリをして机に向かい課題を片付けながら、ロイは聞き耳を立てていた。否、聞き耳を立てている訳ではない。密談と称するには声が大きすぎ───つまりは勝手に聞こえてくるのだ。
「あー、そういやジンが切れてるんだった。悪ィけど、ついでにジンも買ってきてくんねぇ?」
人懐こい笑みを浮かべ、頼むと同期生に拝んでいる男の背中をチラリと横目で見遣り、大方の察しをつける。寮を抜け出す算段だ。
士官学校の敷地内にある学生寮では、厳格な規則に守られ生活が営まれている。士官学校とは、明日の軍を担う士官候補生を教育・訓練するための施設だ。学則も寧ろ軍規に近く、さながら小規模な軍社会と云っても過言ではない。無論、生活に至るまで候補生達は厳しく管理されている。当然、規定日以外の外出──脱走も含む──は許されない。見つかれば、将来に亘って響く大きなペナルティは免れない。
とはいえ、彼等もやんちゃをしたいお年頃である。生活の総てを厳格に管理されて、そうですねと大人しくしていられるほど老成してはいない。そういう訳で、寮監担当の教官の目を盗み、夜陰に紛れてスリルと背中合わせな脱走を試みる。それは、寮生だけが知るある種の名物であった。
そして、ロイの同室者であるところのこの男───ヒューズは、寮生を監督する寮監生という立場にありながら、寮則破りに平然と目を瞑り、或いは自身も嬉々として寮則破りを実行するような、見た目優等生だがその実とんでもない大悪党なのだった。
そう云えば、とロイはペンを走らせながら思いを巡らせる。寮監担当の教官は月番の持ち回りだが、今月の寮監は生活態度の乱れに特に厳しいと有名な教官である。普通点呼の時間は定刻なのだが、この教官の時はランダムでいつ点呼が掛かるかも判らない。仮に上手く脱走したとしても、予測不能なこの点呼時間に運悪く在室していなければ即アウトなのだ。だから、彼が寮監である月はおいそれと寮生も脱走を試みることができず、慎ましく生活をしているのだが。
(今日は…確か西方へ出張だったな。なるほど、それでか)
不在となれば寮生の天下である。代替の寮監担当の目などヒューズを以てすれば簡単に欺けるだろう。
尤も、ロイには関係のない話だ。ロイはそういったことに全く興味がなかった。自分に迷惑が及ばなければ好きにやってくれ、というスタンスである。
「ジン?何、お前もう切らしたの?」
なおも、ヒューズとその同期生との会話は続いている。
「いやぁ、結構ねー呑んだくれちゃってねー」
ヒューズはチラリとロイの方を見遣り、意味深な笑みを口許に浮かべてそんな風に答えた。
(な…ッ)
辛うじてポーカーフェイスを保つことができたロイだが。
あと少し虫の居所が悪ければ、彼は焔の餌食になっていたかもしれなかった。


「ロイ、見ろよ。綺麗な月だぜ?」
窓際に陣取ったヒューズは、上機嫌にロイへ声を掛けてくる。
寮内は物音一つしない。嘘みたいに静かだ。大方この機に乗じて寮を抜け出している者が多いのだろう。
静かな空間に身を置くことは好きだ。こういう晩はさぞ読書も捗ることだろう、とロイは念入りに品定めをした錬金術関係の蔵書を机に積み重ね、読書に集中するフリをしてヒューズのことを無視することにしていた。
「おーい、ロイ?」
いっそのことこの男も寮を抜け出せばいいのに、と思う。そうすれば、自分は静かな空間を独り占めだ。清々と読書に勤しむことができるのに。
「なぁ、ロイってば」
「…煩い」
しつこく名前を連呼されて堪えかねたロイは、胡乱な目つきでヒューズを見上げた。漸くロイの意識が手許の分厚い本から自分に向いたことで、ヒューズは満足そうな笑顔を見せる。
まるで子供のように。
「今夜は綺麗な月夜だぜ」
「フン、だから何だ?」
「ついでに云やぁ、今夜は脱走にお誂え向きだ」
得てして子供は悪戯を思いつくもので。眼鏡の下の瞳は何かを思いついた、若しくは何かを企む<それ>だ。
胡散臭そうにロイはヒューズを見つめる。嫌な予感がした。
そんなロイの視線を受け止め、ヒューズはニヤリと笑う。そして、「という訳で」とポンと己の膝を打ち。
「今から脱走作戦を決行するぞ、ロイ」
何だそれは!と喚き返す暇もなく、本を取り上げられたロイは。
「ちょ…ちょっと待て!」
「時間は無駄にしねぇのが俺のポリシー」
「わ、私を巻き込むな!」
「巻き込んじゃいねぇよ。一緒に行こうゼっていうお誘い。こんな綺麗な月夜、勿体ねぇだろ。ほらほら」
何だ、この強引さは。
腕を引っ張られて、されるがままに。月夜の下へと連れ出される自分がいる。
ロイは思わず顔を顰めた。士官学校に入学してからというもの、自分の手を引くこの男にずっとペースが乱されている。無視しても、閉め出しても、勝手に領域に入り込んでくるこの強引さは何なのだろう。
「ほら、見ろよ。綺麗な月だろ?」
促されて仰いだ夜空に浮かぶのは、一点の曇りもなく淡い光を地上に降り注ぐ綺麗な月。
ああ、と頷くロイを見下ろして、ヒューズはまた満足そうに笑った。
そして、ロイは。
そんな彼に───いつかの日か侵蝕されるかもしれないと初めて自覚したのだった。

士官学校寮100室巡り by同室同盟




再び久しぶりのお題消化で。>いつまで経っても1回生だよ、このままじゃ(苦笑)。
「脱走」というからには、こう華々しく手に手を取り合って寮からの脱走劇をとも思ったんですが…何デスカ、えーとこれは脱走デスカ?
もう少し仲が進展していれば、貴方からの脱走みたいなシチュエーションでもいいんですが。こちらは別の機会に。
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