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人生楽ありゃ苦もあるさ

日々のつれづれや大好きなものを力いっぱい叫ぶ代わりに書き綴っています。サイト更新情報や、時々BASARA二次創作(小政、家政メイン)も。 

190.もたれて眠る【幻水2:赤青】

雨の匂いがする。
どこか遠くの方でサアサアと静かな雨音が聞こえる。
(あ、め…?)
くふんと小さく鼻を鳴らし、それからピクリと耳を動かして、マイクロトフは気怠げに瞼を引き上げた。
正直なところ雨降りは好きではない。だから、こんな日は思考が沈滞しがちだ。思考だけではない。何をするにも億劫になる。それを全部雨の所為にするのは少し狡いかもしれないが、でも本当なのだから仕方がない。
ふと傍らを見遣ると、カミューもまた眠ってしまったようだった。
(いつの間に?)
特段何をする予定もない雨の日の午後。お気に入りのソファに肩を並べて座り、マイクロトフはぼんやりと、そしてカミューは暇潰しのように読書をしていた。
妖猫族は繁殖期以外は群れを成さない。故に物心ついた時には既に一人だったマイクロトフに『淋しくはないのかい』と問い、『暫く俺の許にいないか』と手を差し伸べたカミューを不思議な人間だと思った。ずっと一人で在ることが当然で、傍らに自分ではない他者の気配を感じることに慣れていなかったから、当初は微妙な距離感があった。何処まで踏み込めば良いか、何処までならラインを許して良いか。警戒心が強かった、と云ってもいい。或いは本能か。
それが。
今や寄り添うのも当然、のようにこうして二人でいる。あの頃のマイクロトフが考えてもみなかったこの近さは、知らぬ間に擽ったいような温もりと居心地良さを与えてくれた。
彼の傍にいてそれらを享受し続けて良いものか戸惑っている自分が今もいることを否定はしない。このままカミューの傍にいて、どんどん居心地良さを感じてしまったら、終いに自分はどうなってしまうのだろうかと一抹の不安を感じる時もある。最早それほどまでに日常が侵蝕されてしまった。
間近で見るカミューの寝顔。
それに触れようと手を伸ばしかけて、慌てて引っ込めた。下手に触れてせっかく気持ちよさそうに眠っているところを起こしてしまっては悪いと思ったのも確かだが、寧ろこのまま寝顔を見ていたいという思いが強かったから。
そっと顔を近づける。ここまで接近したことは、マイクロトフの記憶の限りない。
(カ、ミュー)
魅入るように顔を近づけたマイクロトフだったが、やがてハッとして慌てて躰を退いた。顔を顰めて、一体どうしたのだと心の裡で己を詰る。己から距離を縮めようなどと、それは自分でも全く理解できない行動だった。
ああ、こんな雨降りの日に起きているからいけないのだ。ふり払うように何度も頭を振ったマイクロトフは、再度寝てしまおうと無意識に傍らの温もりを求めて擦り寄った。
「…ん」
伏せられた睫毛が震える。スリと寄り添うと、微かにカミューが身動いだ。
(いかん。起こしてしまう)
「…どうした、マイクロトフ」
寝起き特有の掠れた声で問われる。まだ半分は夢の中なのか、しきりに瞬いてカミューは窓の方へと首を巡らせた。そうして合点がいったのか、ああと溜息を零した。
「雨が───降っているんだ?」
道理で静かだと思った。
マイクロトフの頭を撫でながら、カミューは小さく呟く。寄り添う躰を更に引き寄せようとするのは、雨降りが好きではないマイクロトフに対する気遣いみたいなものだ。そんな些細なことさえ、マイクロトフは心地良く感じてしまう。
この変化は一体どうしたことだろう。
彼に出逢う前───ほんの少しまでは、一人で在ることに些かの不安も覚えなかったというのに。
「お前は雨が嫌いだものね」
「ああ。何をしようにも億劫で堪らん」
「なら。もう少し眠るがいいよ。どうせこんな日はやることもないし、ね」
憮然とするマイクロトフを見遣ってクスリと笑みを零したカミューは、そんな魅力的な提案を持ちかけてきて。
「そうだな。お前の懐は温かくて心地良いから……特別に付き合ってやる」
つれない物言いだと苦笑を浮かべながら、カミューは引き寄せたマイクロトフの肩口に頭を乗せる。
「カミュー?」
首筋を擽る安らかな寝息の存在が、再びカミューが眠りの淵に引き戻されたのだということをマイクロトフに教えてくれた。
「まあ…いい」
とりあえず考えることを放棄したマイクロトフは、カミューの言葉に従って、自分の肩に頭を預けて眠る彼にに凭れるようにして射干玉の瞳を閉じた。


雨音だけが今も聞こえる。
こんな風に過ごせるのなら───雨の日も満更悪くはない。



365題 お題配布元:capriccio
100題で書いたパロの後日談。
少しカミューに懐いてきた猫マイクのお話でした。
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