人生楽ありゃ苦もあるさ

日々のつれづれや大好きなものを力いっぱい叫ぶ代わりに書き綴っています。サイト更新情報や、時々BASARA二次創作(小政、家政メイン)も。 

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29.メサイア【幻水5:カイ王】

全身が激しく軋み、痛みで悲鳴を上げてカイルは目を覚ました。どのくらいこの堅固な牢内で伸びていたのか見当もつかない。時間単位であればいいが、下手をすると日単位かもしれない。
あーあ、と己が無様さに溜息を吐き、不自由な躰をどうにか起こして壁に凭れかかった。
口を動かそうとすれば、引き攣った痛みが走る。視界が狭まっているように感じるのは、もしかしたら散々に殴られて瞼が腫れ上がっている所為だろう。失明しなかっただけでも幸いと思っておくべきだろうか。
「せっかくのイイ男が…台無しだよなぁ」
イテテテと口を歪めながら、まるで他人事のように軽口を叩いてみせるけれど。
任務を失敗した。それで───このザマである。
カイルに与えられた任務は、この国の裏社会で頂点に立つファレナ・ファミリーの筆頭幹部の狙撃だった。依頼主はファミリーの傘下にあるバロウズ家の当主。ファミリーの傘下にありながら不穏な動きをしているバロウズ家は、昨今ファレナ本家とは方針の違いからか、次第に不協和音を生じ始めていた。バロウズ家にとって、方針の相容れないファレナ本家は最早煩い目の上の瘤のような存在である。そこで、当主は今回大博打を打って出たのだ。
やんちゃをして故郷を飛び出したカイルを拾ったのはバロウズ家だ。子供が何の後ろ盾も持たぬまま一人で生き抜くには厳しすぎる。幸か不幸か、カイルはバロウズ家に拾われ、そして組織の力となるべく様々な教育を受けた。その結果、16の年には年若いながらバロウズ家でも五指に入る刺客として暗躍していた。
バロウズ家の当主にしてみれば、カイルの才を見込んでの今回の任務だったのだろうが、結果はこのザマである。
(ロングレンジよりはショートレンジの方がどちらかといえば得意なんだよねぇ)
任務に当たって与えられた獲物はライフルだったが、射撃よりは標的の懐深くに飛び込む接近戦の方が得意だ。敗因はそこにあるんだよねと今更云い訳しても仕方がないことは判っているけれど。
任務は失敗。己は捕縛されてこの有様。
どの道、助かる見込みはあるまい。本家が送り込まれた刺客を生かしておくなど到底考えられないし、例えば仮にこの牢から上手く逃げ果せたとして、依頼主のバロウズ家が任務をしくじった己を匿ってくれる訳がない。闇から闇に消されるのが常道だ。
「あーあ…」
自分の命が風前の灯火だというのに、妙に落ち着いていることがカイルは可笑しかった。エントランスホールで取り押さえられたあの時点で自分の末路を悟って、諦念してしまったのかもしれない。すぐに手を下さず、こんな場所にぶち込んでおくファミリーの意図が読めないが、いつでもお前の命など簡単に奪えるのだという見えない恐怖に追い詰められるのを案外期待しているのだろう。確かにそういった状況に長時間晒されれば、普通は心理的に疲弊しそうだ。
瞳を閉じる。視界を遮断しても意識は沈まない。
不意に。
コツコツと靴音が聞こえてきた。静かなだけに、軽い音でもよく響く。最初は微かだったが、次第にこちらへ近づいてくるようだ。どうせ見張りの者か何かだろう、と当初カイルは気にも留めずにいた。
靴音が止まる。鉄格子の向こうに人が立つ気配。
「ねえ…喋れる?」
窺うように訊ねる声は、幼く柔らかい。
腫れて重い瞼を引き上げる。いっそ抉じ開けるに近い動作ではあったが、薄暗い視界の中ぼんやりながら声の主の姿を捉えることに成功した。
あの子供は確か、と麻痺しかかっている記憶を反芻してみる。確か標的とした男の子供ではなかったか。つまりは、ファミリーを統べる首領の息子だ。大勢の男達に取り押さえられた時に垣間見た子供。
「キミは…ひょっとして告死天使なのかな」
この場に現れた子供は。父親の命を奪おうとした者に対して死を宣告する天使か。
或いは。
「違うよ。僕は…」
口を開きかけて躊躇って口を噤み。それから鉄格子の際まで歩を進める。近づいてくれた所為か、先程よりも余程はっきりと輪郭を捉えることができた。
凡そこの世界には似つかわしくない───喩えるなら、陽光の似合うような子供だった。それこそ天使のように穢れも知らぬような純真無垢な子供。
自分とは真逆の。
「囚われの俺にはどうでもいいことだけれど。命を狙った者を生かしておくほど寛大ではないでしょう、この世界は」
告死天使だというのなら、それでも構わないと正直カイルは思った。どうせ元より見込みはない命である。なにより天使に出逢えたのなら、心持ち苦しまずに逝けそうな気がする。
「ねえ…貴方は生きたいの?それとも死にたい?」
彼は問うた。
何をいきなり云うのだろう。カイルは自分の耳を疑った。はっきりと結末までの道筋がつけられたこの状況下で、生きたいのかそれとも死にたいのかだって?
「もし生きたいのなら…僕がどうにかしてあげる」
彼の傍らに控えていた少女が諌めるように厳しい声で制したが、意思を曲げるつもりはないのか、彼はやんわりとした口調で「リオンは黙って」と命じた。如何に幼くても、やはり命じる立場にある者だ。
「ねえ、貴方に今選択権をあげる」
生きたいのか───それとも死にたいのか。
躊躇うまでもないのに、と思う。任務をしくじった刺客に相応しい結末が待っていることに対して、とうに諦めがついているのに。それを覆すような、こちらの心情を、決意を、意地を、諦念を揺さぶるような物云いをして。
希みがあるのか、と浅ましくも思ってしまうではないか。
叶うのならば、と。


「──────生きたい…」


微かに声が零れ落ちた。
本当に素直にそう思った。
その声を掬い上げて、鉄格子の向こうで彼は極彩色の微笑を纏った。
死を宣告する名を持つ不吉な天使などではなく。
そこに降り立ったのは。


───紛れもなく己を救ってくれた本当の天使だった。



365題 お題配布元:capriccio


マフィアパロ「夜明けを待つ者」のカイル視点ver.。
出逢って初めてこの人のために命懸けようと思った、的なカンジ。
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