人生楽ありゃ苦もあるさ

日々のつれづれや大好きなものを力いっぱい叫ぶ代わりに書き綴っています。サイト更新情報や、時々BASARA二次創作(小政、家政メイン)も。 

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54.僕の位置【幻水Ⅴ:カイ王】

カイルは本当に熱心だよねぇ、と机上に積み上げた本の合間から見上げるようにして頬杖をついたイサギが云った。
「退屈なら離れていても大丈夫ですよ?屋敷内だったらセキュリティの上で安心ですし」
屋敷の外に出る心積もりなら少なくとも護衛を数名は連れて行くように、と顔を上げたカイルは彼に向かって念を押した。幼いイサギにとって、こんな風に閉じ籠るばかりでは退屈だろう。この世界で生きると覚悟を決めて以来、カイルはすべきことが毎日山積みだが、それに主筋たるイサギが付き合う道理はない。
「別に退屈じゃないよ。僕もここで一緒に勉強してもいい?」
カイルを気遣うようにイサギが微笑う。
元々は刺客としてバロウズ家からファレナ・ファミリーに送り込まれたカイルが、命を狙うべき相手の息子であるイサギに拾われてそろそろ一年が経とうとしている。ファミリー筆頭幹部の狙撃という任務に失敗した者が辿る筈の末路からカイルが外れたのは、全く以て幸運としか云い様がなかった。
狙撃の日がたまたまイサギの誕生日だった。彼は囚われの己に生死の選択権を与え、生を望んだことを汲み取って、誕生日のプレゼントとして自分付きの護衛にとカイルを所望したのだった。無論、刺客を護衛にするなど正気の沙汰ではない。いつ寝首をかかれるかと周囲の猛反対に遭ったそうだが、イサギの父でもあるファミリー筆頭幹部のフェリドは二つ返事でこれを了承した。おそらく、彼にも思惑があってのことだろう。なににせよ、そうした経緯で風前の灯だったカイルの命は繋がれ、今日に至っている。
やんちゃをして故郷を飛び出したカイルを最初に拾ったバロウズ家では、刺客に徹することしか教わらなかった。年端もいかないうちから最も手に馴染む獲物を与えられ、標的を消す方法を徹底して叩き込まれた。
けれど、ここで与えられた自分の役回りは<護衛>だ。
<殺す>ことではなく、<護る>ということ。
ファレナ・ファミリーは裏社会では最も名の知れた勢力である。規模も他組織の追随を許さず、以前は首領の座を巡って血で血を洗うお家騒動が繰り返されていたというが、当代に至ってその勢力は盤石となった。イサギはその当代首領アルシュタートと筆頭幹部フェリドの子である。
ファレナ・ファミリーは女系で代々女子が首領を継ぐことになっている。男子であるイサギは故に次期首領として立つことはなく、次代は妹のリムスレーアと決まっているが、とはいえ彼に全く価値がない訳ではない。裏社会で最大を誇る勢力の首領の子供なのだ。彼等がその世界の者達の目には冷酷非情と映ろうと、彼等自身、子供達を愛し慈しんでいた。だから、子供達を狙うということは彼等に揺さぶりをかけられるということに繋がり、敵対勢力にとっては大変な価値なのである。
そうした背景であるが故に。イサギはよく狙われた。次期首領の彼の妹は更に幼いため、行動範囲が屋敷内に限られているから比較的護りやすい対象である。しかし、イサギは学校など外の世界があるために、必然的に行動範囲も広い。護衛を指名されて自分が就いて以降も度々狙われていた。
護らなければ、と本気で思った。この身を盾にしてでも。
そのためには強くあらねばならない。
カイルは考えた。
<殺す>ことではなく、<護る>ということ。
或いは、<護る>ために<殺す>ということ。
未だ自分は完全ではない。
だから、強くなるためにカイルは様々な人間に教えを請うことにした。元々誰かに教えを請うという行為を苦とは感じない。頭を下げて教えを請うことで、最短で強くなれるというのであれば少しも苦とは思わなかった。
己と同じ剣を獲物とするフェリドとその腹心ゲオルグには剣を、古参の幹部ガレオンには教養を、そしてファミリー随一の狙撃手と謳われる首領の妹サイアリーズには、ここに至る要因ともなった苦手な射撃を。
特にサイアリーズには。
最初から思うさま揶揄われた。女傑の第一印象は最悪、といっても良いほどに。
『そんな腕で…よくもまァ、義兄さんを狙撃しようなんて考えたもんだねェ。余程アンタの雇い主の処は人材不足だったのかい?』
精度の悪いカイルの射撃の腕を確かめて、彼女は呆れたように云った。
『だから…俺は接近戦の方が得意なんですよ』
『剣の腕は確かなのかもしれないが。こっちはからっきしだね。銃の扱いがてんでなってない。こんなブレた照準で何を狙うつもりだい?』
『はぁ…』
これでもバロウズ家では五指に入る刺客だったのだと物申してみても、端から呆れている彼女におそらく信じてはもらえまい。ただ、本当にロングレンジが少しばかり不得手だっただけの話だ。
『全く…しっかりしておくれよ。アンタはイサの護衛なんだからね。あの義兄さんが傍に置くことを許しているんだ。よっぽどアンタに見どころがあるんだろう。確かに素地は良さそうだから、一から叩き込めば使い物にはなりそうだし。まァ、義兄さんもそう考えて私を宛がったんだろうけどね』
そうとなれば手加減はしない。彼女はそう宣言した。そして、その宣言どおり遠慮なく手加減ナシで扱かれている。その所為か、近頃は当時から比べれば格段に上達した腕前を褒められることも多くなった。まあ、それでも彼女に云わせれば、目下<中の上>といったところらしいが。

ガレオンから渡された本はこちらの知識レベルを考えているのかいないのか、難解なものが多く、カイルを手こずらせる。知らず溜息を吐き、それから軽く目頭を押さえたカイルは、ふとイサギの方を見た。彼もまた学校の宿題だろうか。難しい顔をしてノートと睨めっこをしている。殺伐とした裏社会に身を置きながら、ここにはひどく穏やかな光景があって、不意にカイルの胸中に愛しいものがこみ上げた。このような感情はついぞなかったものだ。
自然と笑みが零れる。
その気配を察したか、顔を上げたイサギが怪訝そうに小首を傾げた。
「どうしたの、カイル?」
護りたいと思う。
「イサギ様」
「何?」



「俺───強くなりますから」


カイルは、いつになく真摯な眼差しでイサギに誓ったのだった。
この手で貴方を護れるように。




365題 お題配布元:capriccio

「夜明けを待つ者」シリーズ。
イサギの護衛役に就いたカイルは、彼を護るために日々精進中。
サイアリーズはフェリドと並んで、ファミリー内ではアルシュタートの片腕を務める女傑です。
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