人生楽ありゃ苦もあるさ

日々のつれづれや大好きなものを力いっぱい叫ぶ代わりに書き綴っています。サイト更新情報や、時々BASARA二次創作(小政、家政メイン)も。 

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27.僕のお姫様【幻水Ⅱ:赤青】

けふん、けふんと苦しそうな咳が障子で隔てた向こう側から聞えてくる。ここのとこ暖かな───所謂小春日和が続いていたのだが、寒気が入ってきた所為で突然寒くなったものだから具合が悪くなったのかもしれない。激しい寒暖差は病弱の身には負荷が掛かり過ぎる。
生垣の崩れた部分、ほんの僅かに生まれた穴に小さな体を潜り込ませれば、目当ての部屋に一番近い。
けふん、けふんと聞えてくるひっきりなしの咳に知らず表情を曇らせたカミューは、縁側で靴を脱ぎ捨てるとそっと障子を滑らせた。
「マイク?」
心配そうに顔を覗かせれば、その声で来訪を知った少女が大儀そうに床から起き上がった。濡羽色の黒髪がサラサラと背中に流れ落ちる。
「マイク、大丈夫?」
「ああ…大丈夫。ここのところ陽気が良かったから…ちょっと油断しただけ、だ」
そう告げてからまた───今度は少し激しく咳き込む。カミューは慌てて枕許に駆け寄ると、自分よりもずっと小さくて細い背中を擦ってあげた。
「それより…来ちゃダメだって云われなかったか?」
「云われたけど。だからっておとなしく云うことを聞く俺だと思う?」
そう問われて、澄んだ漆黒の瞳を丸くした少女は「おとなしく云うことを聞いた例などなかったな。そういえば」と今更呆れたように答え、プッ吹き出した。そうすると見違えるように生気が宿る。
色白の面に艶やかな黒髪。まるでお人形のような少女は、否や少女などではなく、れっきとした男子だ。名をマイクロトフという。カミューとマイクロトフは幼馴染という間柄だ。
マイクロトフの母親は何度も子を流し、やっとのことでマイクロトフを授かったという。だが、その待望の男子は体が弱く、命を繋ぐことを幾度となく危ぶまれた。死神に魅入られてしまった子は性別を偽ればその呪縛から逃れられる、という迷信があって、マイクロトフはそれに倣ってある一定の歳になるまでは女子として育てられているのだった。
そういう事情を教えられるまでは、カミューですら彼のことを本当に女の子だと思っていたのだ。性徴もまだであるこの時期、外見だけの判断なら充分に女子といって通用する。まるでお人形かお姫様だ。
とはいえ未だ死神の呪縛からは逃れることは叶わず、なかなか床上げをすることができない。自由に外を駆け回ることも遊ぶこともできず、こうして日がな一日臥せっているマイクロトフを思うと、幼いながら不憫に思うカミューである。病弱なばかりに不自由なことばかりだ。もし彼の立場が自分だったら、ほんの僅かでも耐えられない。
「カミュー?どうした?」
「ううん、なんでもない」
怪訝そうに見上げてくるマイクロトフの瞳に一旦思考を中断したカミューは、緩く首を振ってにこやかに笑ってみせた。
「それより。いきなり寒くなったよね」
「今年は雪の訪れが早いだろうか」
どうだろう?とマイクロトフの問いにカミューは首を傾げた。確か数日前の天気予報で初雪の便りが間近だとか云っていたような気がする。今年の冬は長そうだ。
寒いのは嫌だなァとつい呟いたカミューの本音を聞き届けたマイクロトフが可笑しそうに笑った。
「わ、笑うなよ」
「スマン。でも、俺も寒いのは嫌だな。雪は好きだが」
尤も、雪の日は大抵臥せっているから雪を触りたくても触れないけど、と少し淋しそうに続ける。
いっそ儚げに。
「マイク…」
こんな時どう言葉を掛けたら良いのだろう。気の利いた言葉の一つでも云えたら良いのに。そんな自分に歯噛みをしたその時、マイクロトフが再び咳き込み始めた。
「マイク!?」
背中を擦り、水差しで少しずつ水を飲ませて落ち着かせてやる。漸く発作が治まったところで、マイクロトフを寝かせた。
「…すまない」
布団を肩まですっぽりと掛けられ、弱々しい声で謝るマイクロトフの黒髪を梳きながら、カミューは気にしないでと答えた。彼の具合を考えれば、無理をさせてしまったのは却って自分の方かもしれない。
「初雪が降ったらさ。マイクのために雪だるまを作ってあげるよ」
「雪だるま?」
「うん。それも大きいヤツ。それとも…雪うさぎの方がいいかな。枕許に並べることを考えたら」
パチパチと目を瞬かせるマイクロトフに悪戯っぽく笑い掛けてやる。
「そんな…作れるほど降るものか」
「判んないよ?枕許に並べるどころか、うっかり部屋中雪うさぎを飾れるかもしれないし?」
やけに自信たっぷりにカミューが答えるから。マイクロトフは布団の中で呆れたように、それでもどこか嬉しそうに「期待はしないでおく」とだけ答えた。
マイクロトフが喜ぶのなら。
どんなことだってしてあげたいし、なんだって与えてあげたい。
そして。
あらゆる害を成すものから彼を護ってあげたい。否、護らなければならないと思う。カミューにとってマイクロトフはとてもとても大切な宝物なのだ。傍にいてくれるだけでキラキラと輝く。
「マイク…」
(これは俺の誓い、だから。絶対にマイクを護るよ)
マイクロトフを護る。
それは、幼き日の誓い。



今年はまた随分積もったなぁと感心しつつ一人ごち、マイクロトフは縁側に立って庭を眺めていた。冷たい縁側に裸足で立っているものだから、見ているこちら側の方が余計に寒くなる。寒くないのかい?と訊ねれば、別にとあっさり返された。
「これだけ積もれば、さぞかし雪だるまも作り甲斐があるぞ」
笑いながら袖捲りを始めるマイクロトフは、最早やる気充分のようだ。
「なに、まさか今から作る気?」
「ああ。だから、お前も手伝え。カミュー」
えーっと口を尖らせているうちにマイクロトフはさっさと縁側を降りてしまった。それでもごねていると、業を煮やしたのかいきなり雪玉を投げられた。
「げ!?」
「もたもたしているお前が悪い。子供の頃はお前の方がこういうの好きだったクセに」
マイクロトフが笑う。子供の頃のことを持ち出されて肩を竦めたカミューは雪を払うと、仕方がないなぁと答えて縁側を降りた。
マイクロトフへの死神の呪縛はなくなった。昔はすっぽりとカミューの腕の中に収まるくらいに華奢だった面影はどこにもない。これだけ鮮やかに変化をするなんて詐欺だとつい罵りたくなるほど呪縛から逃れられた彼は健やかに成長し、病知らずの好青年となった。
(今、面と向かって『護りたい』なんて云ったら…激怒しそうだよなあ)
マイクロトフの背中を追いながらぼんやりとそんなことをカミューは思った。最早どう好意的に解釈をしても庇護などを必要とはしていない。寧ろ今の彼は自分の道を自分でガンガン切り拓くような、そういうタイプだ。
決してお人形だとかお姫様だとかではない。
それでも。
彼を護りたい。彼を護る。という子供の時分の想いは今も変わってはいない。案外一途だったんだなあ、俺と己に感心するカミューである。
尤も。
時々どうしようもなく挫けそうになることがあるのだが。


365題 お題配布元:capriccio


参加中です。→赤青連続更新企画

赤青連続更新企画2日目。
本日は病弱なマイクロトフをお届けです。>そこがパラレル。
体が弱い男の子なので丈夫に育つように女の子の恰好をさせて云々…というお約束なアレです。姫若子です。
願掛けが叶って丈夫に育ったマイクを見ながら、カミューは時々挫けそうになるのです。
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