人生楽ありゃ苦もあるさ

日々のつれづれや大好きなものを力いっぱい叫ぶ代わりに書き綴っています。サイト更新情報や、時々BASARA二次創作(小政、家政メイン)も。 

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267.元気ですか【幻水Ⅱ:赤青】

元気ですか。
出すこともない手紙だとは判っている。判っていて、尚したためる。



元気ですか──────俺達は元気です。


「だいぶこの義手も馴染んできた感じがするな。流石、当代随一とかいうからくりだけはある」
右手を握ったり開いたりを繰り返しながらカミューが云った。自身が馴染んできたというだけあって、多少ぎこちなさは残しているが、確かに動きは以前に比べれば滑らかになってきているようだ。
「おいおい、そんな表情するなよマイク。」
少しだけ困ったように笑ったカミューは、気遣うように寄り添っているマイクロトフの頬を人差し指で突いた。「だが…」と云い掛けて、続く言葉を探しあぐね口を噤んだ彼の頭を慈しむように撫でる。
別に腕の一本くれてやってもあまり支障はないのだ。右腕を失って左腕一本になった時、それなりに生活を営むことはできた。強いて不便だと───歯痒く思ったのは、両腕でマイクロトフを抱きしめることができなくなったということで。
納得して、というにはあまりにも身勝手で自己満足ではあるまいかと思う。だが、カミューは納得して右腕を暴漢どもにくれてやった。マイクロトフを二度と失わずに済むというのなら、そして、そのためにそれが代償というのなら安いものだった。
カミューとマイクロトフは幼馴染という間柄だ。子供の頃はよく二人で遊んだものだった。しかし、ある日突然マイクロトフはいなくなってしまった。前日までは普通に一緒に遊んだのに、別れなければならない理由も別れの言葉も何一つ云わずに彼はいなくなってしまった。子供心にそれがひどく悲しくて、傷ついて、闇雲に彼のことを捜したのを覚えている。
大好きだったのだ。マイクロトフがいれば何も怖くなかった。
それなのに。彼は突然カミューの前から消えてしまった。
やがて大人になっても、当時の痛みは少しも薄れることはなかった。いっそ忘れられればいいのに、とどれだけ思ったかしれない。だが、忘れることなどできなかった。思い出まで忘れてしまったら、今度こそ何もかも手離してしまいそうな気がしたから。
ところが。どんな運命の悪戯か、二人は再会を果たした。片や遊郭で一等格上、誰の腕の中にも堕ちない高嶺の華と評判の太夫、片や一介の客として。
花街の最奥に位置する『桜華楼』といえば、政財界のトップが御用達としている遊郭である。表は普通の廓だが、限られた者だけが通される裏は陰間が一夜の夢を売っている。『桜華楼』は客達にとって一種の社交場のような働きもしていて、そこに通うことが許されればあらゆる情報に通ずることができる。特に<裏>に通されるということは彼等の間でステータスとなっていた。それは、逆に<裏>の客として見限られれば、同時に社会的地位も失うに等しいことをも意味しており、それだけ『桜華楼』は強い影響力を持つということだった。
そのような場所にカミューが出入りするようになったのは、彼の同僚の紹介があってのことだ。当時、カミューは若いながら世界経済を相手にする仕事をしていて、仕事漬けの忙しい毎日を送っていた。その息抜きのつもりか、或いは人脈を広げる機会を設定するという意味合いもあってか、同僚が馴染みの店だという『桜華楼』に連れて行ってくれたのだ。
そして、そこで皮肉にもマイクロトフに再会した。
<義聖>と源氏名を名乗った彼は、最高位の太夫だった。どんなに高額の金を積んでも決して靡かない。誰のものにもならない高嶺の華にカミューは倍以上の花代を払って向こう3ヶ月の専属指名を申し入れた。
彼がどうしても諦められなかったのだ。大好きで、なのに一度は目の前から姿を消され、そして再びこんな形で出逢った。再び逢えたら、今度は絶対に離さないと思っていたから余計だ。
カミューは共に故郷へ帰ることを望んだ。看板太夫を身請けするのに幾ら金を積めば良いか詳しくないので知らないが、幸い蓄えはあるから彼の身請けに支障はない。しかし、頑としてマイクロトフは首を縦に振らなかった。それどころか、賭けを申し出たのだ。
曰く、専属期間中に自分の心を少しでも動かせたならその時はお前と共に帰ろう──────
彼は誰のものにもならない。専属など未だ誰も望んでも果たしえなかった。その彼が。
そう云って、初めて専属指名を受けたのだった。
高嶺の華を占有しない──或いはできない──ことで彼の馴染みの客達は平等でいられた。下手な独占欲も互いに醜い嫉妬心に駆られることもなかった。そうであるうちは微妙な具合でバランスが保たれていたのだ。
それがカミューの登場で崩れてしまった。
今までどれだけ金を積もうとも絶対に専属指名を応諾しなかった義聖が新参の若造に、という知らせは瞬く間に贔屓客に知れ渡った。それは彼等の嫉妬心を煽るに充分なものだった。それでも多くの者達は以降の機会を信じて耐えたのだが、とある愚かな男がカミューを逆恨みして暴挙に出た。暴漢に襲われ右腕を奪われたのはその男の差し金だ。男は大物政治家だった。しかし、これが原因で政界を追われることとなる。
その少し前くらいからマイクロトフとの関係も落ち着きをみせていて、或いは賭けはカミューの勝ちかとも思われた。おそらくマイクロトフ自身も揺らいでいたと思う。だが、その事件は再び彼の心を硬化させてしまった。
『お前に一睡の夢を見せて貰ったから…もういいと思ったんだ。それだけで俺は充分満足だ…って。だから』
ゴタゴタが済んで、言葉が悪いが人攫い紛いに彼を身請けした時、マイクロトフはそう心中を語った。カミューのことを慮って、自ら身を引こうとしていたのだ。
本当に。何もかもが愛しかった。どうして二度もその手を離せるだろう。
あの頃のことがまるで幻のように。二人は毎日を穏やかに過ごしている。マイクロトフは屈託なく笑うようになったし、カミューは隻腕である自分に慣れた。故郷に戻ってしまったので仕事はあの頃のペースまでとは流石にいかないが、同僚がいろいろと手を廻してくれているので凡そ順調だ。二人でなら充分に暮らしていける。
「なあ、カミュー」
「うん?」
「皆…元気だろうか」
ぽつりと呟かれた言葉。
心優しいマイクロトフが彼が長く身を置いていた桜華楼の人達のことを常に心に掛けていることは、傍らにいて良く知っている。彼等がそれぞれ息災であることは時々同僚経由で伝わってきているが、それでもやはり気に掛かるようだ。
「元気だよ、きっとね」
そうだ、とカミューは思いついたように手を打った。
「マイク、どうだろう。皆に手紙を出してみないかい?」
「手紙?」
彼等のことを気に掛けているマイクロトフが幾度となく手紙を書こうとしていたのは薄々気づいていた。だが、それらは一度として投函されていないこともカミューは知っている。彼等はマイクロトフの幸せを願い、笑ってマイクロトフを籠の外へ出してくれた。けれど、マイクロトフは今でもあの時自分自身を優先させたと心苦しく思っている節があるようだ。
「そうだよ。元気ですか、俺達は元気ですってさ。幾ら便りがないのは良い便り、だと云ってもね。俺達ばかりが向こうの様子を知って、逆にこっちは音沙汰ナシってのは些か不義理だとは思わない?」
「だが…」
「お前が心苦しく思っているのは知っている。お前にそういう選択をさせたのは他ならぬ俺だ」
「カミュー、それは…」
違うと首を振るマイクロトフを見つめ、カミューはどこか困ったような笑みを浮かべてぎゅっと抱きしめた。
「ああ、もう。そんな表情をさせたいんじゃないのにな」
「…カミュー」
ごめん、と腕の中で小さな声が返ってくる。
「…お前の云うとおりだ。あんなに優しくしてくれた人達に消息を知らせないのは、確かに不義理かもしれない…」
元気ですか、としたためても許されるだろうか。
今更遅きに失してはいないだろうか。
大丈夫だよ、とカミューは答えた。
きっと彼等は喜んでくれる。そして、同時に安心するだろう。
ついでにね、とカミューはマイクロトフの耳許に唇を寄せて囁いた。
俺達は幸せです、とも知らせてあげれば良い──────と。



365題 お題配布元:capriccio


参加中です。→赤青連続更新企画

赤青連続更新企画3日目。そしてとりあえずの最終日。
本日は以前書いた遊郭パロ『うたかたの恋』のその後。
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