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人生楽ありゃ苦もあるさ

日々のつれづれや大好きなものを力いっぱい叫ぶ代わりに書き綴っています。サイト更新情報や、時々BASARA二次創作(小政、家政メイン)も。 

3.勉強会。

カチャリとドアの開く音で、ベッドの上に寝そべり、頬杖をついて本を読んでいたヒューズは顔を上げた。
「おう、おかえり」
出迎えの言葉を投げ掛けても、目下ルームメイトであるところの下級生は、仏頂面で帰宅の挨拶代わりとばかりに頭を申し訳程度に下げただけで、そそくさと自分の机に向かってしまった。
「遅かったなぁ。メシは食いっ逸れなかったか?」
「…ちゃんと食堂で摂った」
必要最低限の会話だけが成り立っている。世話好きのヒューズとしては、この黒髪の下級生ともっとコミュニケーションを図りたいところなのだが、どうにもこちらの思いばかりが一方通行らしい。頑ななのか、それとも自分の領域内に踏み込まれたくないのか、とにかく同室となってそろそろ一ヶ月が経過しようというところなのだが、未だに他人行儀の域を抜け出ない、何とももどかしい関係が続いていた。まるで、なかなか懐こうとしない黒猫を必死になって手懐けようとして幾度も玉砕している───そんな気分だ。しかも、この黒猫はなかなかに手強い。
机の上にドカドカと分厚い本を積み上げているロイの後姿を見遣りながら、レポートの課題でも出されたのだろうかとついそんなことを考えた。積み上げられていく本の量から察するに、図書館にでも寄ったのだろう。だとすれば、夕食を摂って部屋に戻るのがこの時間でも納得できる。
(おや?)
ふと目に留まった物がひどく不自然に思えて、ヒューズは首を傾げた。ロイの制服の所々に木の葉がくっ付いていたのだ。何処でくっ付けて来たのかは知れない。本人も気付いていないようだ。
(図書館に至るまでにそんな冒険できるようなルートなんてあったかねぇ)
目敏く見つけた木の葉の存在を訝しんでいると。
そんなヒューズの視線を鬱陶しく思ったのだろう。不機嫌そうな表情でロイがふり向いた。
「…何か?」
「いやいや…別に」
フンと鼻を鳴らして再び机に向かうロイを見、知らず知らずに小さな溜息が出てしまったヒューズである。またいつぞやのように上級生に絡まれただとか、試験と称して喧嘩を売られただとか───そうした諸々の厄介事を引き寄せていなければいいのだが。

全専攻必須参加の合同演習が行われたのは、それから一週間後のことだった。毎年この時期に行われる合同演習は、新入の士官候補生にとっては謂わば小手調べのような意味合いが強い。秋から冬にかけて行われる演習に比べれば小規模だが、各自の戦術や戦略もそれなりに試される。たかが演習と甘く見ていると酷い目に遭う上、当然成績にも響いてくるから皆真剣である。
朝から今にも泣き出しそうな雲行きで、ひょっとしたら今年は大雨の中での演習になるかもしれないと内心ヒヤヒヤとしていたのだが、辛うじて全行程が終了するまで保ってくれたようだ。
「は~、何はともあれご苦労さん」
広大な演習場を共に泥まみれになって走り回った仲間とまずは労い合う。自軍の戦略はどうだ、敵軍の戦術はどうだったとふり返るのは、シャワーを浴びて着替えてそれからだ。
「うわ、終わった途端に降り出しやがった」
全行程が終了するまで辛うじて保ってくれた空は、演習が終了した途端に今まで堪えていたものを一気に吐き出すように大粒の雨を落とし始めた。どうせ保ってくれたのなら、ついでに寮に戻る間だけでも保ってくれればいいのに、意に反して次第に強くなる雨足に、ヒューズは級友達と共に慌てて駆け出す。ところが、その足が止まったのは、明らかに皆とは違う方向へと走っていくロイの背中を見たためだった。
突然立ち止まったヒューズに級友達は口々に「どうした?」と声を掛けてくる。見ないフリを決め込もうとすればできたのだが、どうにもそれはヒューズの性分ではなくて。
「ヒューズ?」
「あー、野暮用思い出しちまったから…先行っててくれ」
世話好きも是極まれりだよな…と内心苦笑しつつ、怪訝そうな表情をした級友達の輪から外れたヒューズは、水飛沫を上げてロイの後姿を追ったのだった。
彼の追跡は存外簡単で、ヒューズはすぐに演習場を隔てた雑木林の脇で蹲っている彼の姿を見つけることができた。いきなり蹲ったので、すわ何事かと慌てて駆け寄りそうになったのだが、どうやら体調に異変が生じたとかそういうものではないらしい。
(おいおい、驚かせんなよ)
蹲ったままゴソゴソしている彼の許へと歩み寄る。おい、と声を掛けると、弾かれたように顔がヒューズの方へ向けられた。ほんの一瞬安堵したようにみえた表情は、だがすぐに決まり悪げなものに変わってしまう。
初めて目にする表情に、ヒューズは一瞬言葉を失った。ヒューズが目にするロイの表情といえば、気難しい仏頂面か鼻にも引っ掛けないような取り澄ました表情ばかりだったから。
「何をやってるんだ、こんな処で」
「何をって…」
ロイにしては珍しく歯切れが悪い。何か隠しているなと見当を付けたところで、それを証明するかのように彼の懐から「ニャー」とか細い鳴き声が聞こえた。同時に、しまったとばかりに「あッ」と小さな声が上がる。
「猫?」
蹲って抱え込んでいた存在が図らずも露呈してしまい、ロイの表情が益々決まり悪いものとなった。成程、そう云われてみれば胸許の辺りが不自然にゴソゴソとしている。
「どういうことだ?」
「何処からか母猫が迷い込んで…コイツを産んだらしいんだ。たまたま通り掛かった時にミーミー鳴いているのに気が付いて…ここなら人目につかないだろうと思って」
「こっそり餌を与えていた、と」
渋々といった態で頷く。連日遅い帰宅に加えて、制服に木の葉を付けてきていたのはそういう理由か。子供みたいなことをする───尤も。実際、まだ充分に子供なのだが。
「この雨の中、お前が傘代わりになるこたァないだろう?」
「だが、寮には連れて帰れない。寮則で決められている」
「だからって、いつまでもここでそうしている訳もいかんだろうが。風邪をひくぞ」
上目遣いにヒューズを見上げて、ロイが唇を噛んだ。そんなロイに対して小さく嘆息し、やれやれと肩を竦めてみせた。
「あのな、俺を誰だと思っているんだ?少しぐらい俺を頼れ」
強情を決め込むロイの腕を取る。
もどかしくて仕方がない。
否、苛立っているのか。
「何のための同室者だよ。いいから、俺を信じろ。遠慮せずに俺に頼れ」
あくまでも自分一人でどうにかしようという、その頑なさに苛ついたのか。頼ろうとしないことが面白くなかったのか。自身で釈然としないまま、ヒューズは語気を強めてそう云った。
───俺を頼れ。
「…子猫の一匹くらい、俺がどうにかしてやるから」
そして。今度こそ否応なく、それこそ半ば引き摺るような恰好で、自分達の城でもある寮へと向かったのだった。

寮に辿り着く頃にはずぶ濡れで、戻るや否や冷え切った躰を温めるために、まずはロイを風呂へ放り込んだ。間を置いたのは、懐に寮則違反の一匹の存在があったからだ。ロイが風呂で躰を温めている間、ヒューズは自室で着替えてタオルでざっと頭を拭きながら、子猫を予備に置かれている毛布で包んでやった。そうして、ロイが部屋に戻ったところで、入れ替わりに風呂に入る。
雨に濡れて冷えた躰が程好く温まって、ヒューズが自室に戻ると。
すっかり温まったロイは、毛布に包まった子猫を抱いたまま寝入っていた。
「…なんだかなぁ」
思わず苦笑する。無防備に晒す寝顔は、ひどくあどけない。寝顔は天使だな───などとぼんやり思い、また苦笑を浮かべた。
考えてみれば。
ひと月も同室という共有空間で寝食を共にしているというのに、知らないことが多すぎるのだ。親に内緒で捨て猫を飼おうとする子供のようなことを仕出かすとは思わなかったし、あんな風にほんの僅かでも安堵したような表情を浮かべるとも思わなかった。気難しくて扱いにくくて手強い彼は、踏み込んでみればきっと可愛い存在なのかもしれない。自分は、ロイ・マスタングという存在を知らなさ過ぎるのだ。勿論、それはロイにも云えることなのだが。
「まずは互いを知ることが、同室者として親睦を深める第一歩だな」
とりあえずは、互いを知ることから始めようか。あどけない寝顔を見下ろしながら思う。
「ま、勉強会でも開くかね?」
我ながらそれは名案だ、と笑みを浮かべながら、それよりも先に片付けておかなければならないだろう子猫の貰い手探しに意識を切り替えるヒューズだった。


士官学校寮100室巡り by同室同盟

…どこが「勉強会」なんだかよく判らないんだけど。
とりあえず、お互いを知るために「勉強会」ということで(苦笑)。
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