人生楽ありゃ苦もあるさ

日々のつれづれや大好きなものを力いっぱい叫ぶ代わりに書き綴っています。サイト更新情報や、時々BASARA二次創作(小政、家政メイン)も。 

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353.瞬く光を【戦国BASARA2:小梵】

どうにも上手くいかねェなァ…と溜息混じりに小十郎は独りごちた。壁にぶち当たってなかなか乗り越えられずにいる、そのじりじりとした焦燥感。誰彼構わず当たれるほど自分の立ち位置が確固としたものではないから、つい自分に向けて愚痴っぽくなってしまう。
「どうだ、小十郎。若君のご様子は」
「これは…遠藤様」
ひょこりと顔を見せた伊達家当主の側近に小十郎は慌てて居住まいを正した。不意の訪いである。
「その様子では、どうやら難儀しているようだな」
「はあ…面目次第もなく」
困り切った表情を浮かべた小十郎を見て、そろそろ老年の域に達そうかという遠藤は凡そを察したようだ。
「まあ、若君は気難しいところがあるからな。無理もあるまい。そう容易く心は開かぬか」
若君とは伊達家当主輝宗の嫡男・梵天丸のことである。小十郎は梵天丸の傅役に命ぜられたばかりだった。
小十郎は武家の出ではなく、出羽の神職の子である。それがどんな巡り合わせか、輝宗の側小姓として仕えることになり、更に此度は遠藤の推挙で輝宗の嗣子である梵天丸の傅役を拝命した。
幼い嫡男の傅役となれば導き手の役目を担うばかりか、学友或いは遊び仲間の側面も併せ持ち、長じた後は側近として仕えることになる。若君を導く、その重要な役目を仰せつかったのだ。
神職の、しかも次男坊である身の上を考えれば、武士としてとり立てられることだけでも幸運なのに、それは破格の出世といえるかもしれなかった。
文武両道に秀で、芸にも通じ、何事にも真摯に実直に取り組まんとする姿勢が輝宗の眼鏡に適ったのだろう。輝宗は身分に拘らず、才のある者を積極的に登用する柔軟性を持っていた。ゆえに彼の家臣の出自はバラエティに富んでいて、小十郎を傅役に推挙した遠藤は修験者の子だ。そうした者達を巧く采配できる輝宗は、やはり当主として有能な人物なのだろうと思う。
とはいえ。傅役を拝命したものの、遠藤の言葉ではないが確かに小十郎は梵天丸の扱いに難儀していた。幼い子供に接するような経験が乏しいことを差し引いても、今のところ梵天丸との関係はなかなか難しいところだ。病で右目を失ったことに起因しているのかもしれないが、頑なで人見知りが激しいのだ。とにかく警戒心が強くて、傅役だろうと誰であろうと容易に打ち解けようとしない。これにはほとほと困った。同じくご学友にと選ばれた梵天丸の従弟・時宗丸の方がよっぽど小十郎に懐いている有様だ。
「ただのぅ、若君は伊達家のご嫡男。仮にもご嫡男が斯様に内向的では…という声もちらほらと聞く。殿の手前、こちらでは表立って出てこんが、義姫様の東御殿ではご次男の竺丸様を推す声もあるようだしの」
「遠藤様。それは…」
「それだけ若君の立場が不安定ということだ。ただでさえ、若君は右目を失のうておられる。武将としては致命的ぞ。そこへきて大将としての器にあらずと家臣に看做されれば…判るな、小十郎?」
小十郎は神妙に頷き返した。
「伊達家のご嫡男は何があろうと若君、梵天丸様ぞ?」
「…心得ております」
ぴんと背筋を伸ばし、はっきりと小十郎は答えた。
「この小十郎、身命を賭して梵天丸様にお仕えする所存」
その様を見遣って、遠藤は実に頼もしげに頷いた。
殿に推挙した己の目に間違いはなし、と小十郎の答えに満足して遠藤は部屋を退出した。元より長居をする気は無く、様子見のつもりだったらしい。
そんな理解者を見送ってから、小十郎は再び小さく嘆息した。遠藤は己と梵天丸を引き合わせてくれた人物だ。彼が傅役に推挙してくれたからこそ、小十郎は幼い若君の傍に在るのである。尤も、ただ在るだけで未だ傅役らしい働きをしていないのが口惜しいのだが。
どうすればあの頑なな心を、まるで野生の獣のような警戒心を解くことができるだろう。
「異父姉上にでも相談してみるか…」
小十郎の異父姉である喜多は、梵天丸に愛情の一欠片も見せようとはしない実母の義姫に代わり、乳母として養育の一切を任されている。乳母であるので当然梵天丸と接する機会は多く、自分よりかは余程懐いているようである。その異父姉にどのようにすればよいものか教えを請えば、或いは道も開けようか。
「せめて時宗丸君の万分の一でもいいから懐いてくれれば…傅役として助かるんだがなァ」
ついそんな弱音を吐いてしまう小十郎だった。


体重が軽いから足音に重みを感じない。まるで猫のように密やかな足取りで忍び寄ると、梵天丸はスルリと障子戸を曳いて部屋の中を恐々と覗き込んだ。
父が傅役にと就けた青年に梵天丸はまだ打ち解けずにいる。一つ下の従弟の時宗丸はすぐに青年の存在に馴染んだようだが──元々が物怖じしない、屈託ない性格だからだ──、自分はというと今ひとつ青年との距離感を掴みかねている部分があった。
このまま一歩、相手に踏み込んでもいいものなのか、躊躇う。
梵天丸は伊達家の嫡男ではあるが、周囲の大人達はこの相貌の所為か或いは実母から疎まれているという境遇の所為か、皆一様に遠慮がちに接してくる。可哀想だとか憐みだとか諦念だとか───大人達がどんなに上手に取り繕って隠そうとしても、子供はそういうものに特に敏感だ。幼い時分から否応無しにそうした感情に絶えず晒されてきたから、容易に心を開こうとはしなかった。梵天丸にとって、掛値なしに信ずるに足る大人などほんの一握りしかいない。
この青年はどうだろう。
父に引き合わされた時から、なんとなくではあるが『この者は他の誰とも違うかもしれない』という予感はした。他の大人のように梵天丸を憐れんだりしない。
けれど、直に確かめるには不信感が邪魔をして。だから、思うように話すこともできなかった。
そのくせ、時宗丸が自分を差し置いて青年に懐くのが面白くなかった。それは梵天の傅役だ、と本当は強く云いたかったが、諦めることにすっかり慣れてしまっていたから、結局そうすることもせずにただ左眼を羨ましそうに彷徨わせるばかりだった。
甘えることを知らないのだ。
「こじゅうろう?」
小十郎は文机に向かって座していた。梵天丸からは大きな背中が見えるばかりで、彼が何をしているのかは窺い知れない。傅役としての仕事だけではなく、云いつかった仕事をこなしているのだろうか。小十郎は評判どおり真面目な男だから。
邪魔をするつもりは毛頭なかったけれど、少し興味が湧いたので梵天丸はそろりと近づいてみた。梵天丸が自分から誰かに近寄ろうとすることは滅多にない。だから、梵天丸にとってそれは少しばかり勇気の要ることだった。
だが。
「───?」
梵天丸は包帯で覆われていない左眼をぱちくりと瞬かせた。
小十郎は眠っていたのだ。文机に向かって、しゃんと背筋を伸ばしたままの姿勢で。
「眠ってる、の?」
小十郎の前に小さな手を翳してみたが、反応はなかった。本当に眠っているようだ。しかも眠る時まで堅苦しい。
実母に疎まれた、こんな厄介な子供の傅役を務めているのだ。気苦労も多いだろう。なのに、この青年はいつも自分を第一に考えてくれた。
この青年はきっと自分を裏切らない。
「小十郎」

このまま一歩、お前に踏み込んでも良い?


カクッと首が垂れた反動で小十郎は唐突に目を覚ました。文机に向かったままいつの間にか眠ってしまったらしく、思わぬ失態に我ながら恥ずかしくなる。若君の良き導き手となるべく傅役として日々学ぶことは多くて確かに疲れてはいるが、それを云い訳にはしたくない。
やれやれ、と嘆息した。嘆息をして項垂れた瞬間、予想だにせぬ状況が飛び込んできて思わず目を瞠る。
「梵天丸…さま?」
己の膝の上に小さな頭がちょこんと乗っていたのだ。
まるで子猫のように躰を丸めて硬い膝頭を枕代わりにして梵天丸が眠っていた。
一体、いつの間に?いつの間にこんなに傍に寄ってきてくれたのだろう。普段は傅役ではあってもなかなか近づいてはくれないのに。
不覚にも自分が眠っていたから、少なからず警戒心が緩んだのだろうか。
「まあ…それでも今は構わねぇか」
覚えず頬が緩んだ。柔らかな頬をそっと撫でる。
頑なで懐こうとしない生き物が少しずつ自分に心を許していく、そんな感覚に似ているかもしれない。
「梵天丸様、いつかはこの小十郎を貴方の領域に迎え入れてくださいますか?」
今はまだ無理かもしれない。他者に対する不信感はなかなか拭えないかもしれない。
けれど、いつか。いつの日にかこんな風に自然に振舞える日が来れば良い。
「梵天丸様…」



本当はとっくに互いの領域に踏み込んでいることをお互いに気付かないだけ。



365題 お題配布元:capriccio




小十郎、傅役として悪戦苦闘中の巻。
梵天丸がなかなか懐かないのですよ。寧ろ時宗丸の方が先に懐いちゃったりで。>こじゅうろーこじゅうろーとか云って。
小十郎も仕方なく構ったりしますが、その様を梵天丸が見てまた臍を曲げる…というかヤキモチを焼くというか。そんな感じ。

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