人生楽ありゃ苦もあるさ

日々のつれづれや大好きなものを力いっぱい叫ぶ代わりに書き綴っています。サイト更新情報や、時々BASARA二次創作(小政、家政メイン)も。 

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
    --:-- | Top

4.酔っ払い

人が勉強をしている時に、大概この男は邪魔をした。鬱陶しいことこの上ない二級上の男は、それをスキンシップだと平然と抜かす。
「ほら、仲良くなるにはまず一番にスキンシップが大切だろ?」
ニコリと人好きのする笑みを浮かべる彼に対し、ロイは露骨に迷惑そうな表情を浮かべた。押し売りは間に合っていると素気無く答え、再び机に向かう。この日ロイのクラスは高等戦術論のレポートが課されていて、僅かな時間ですらタクティクスの構築に費やしたいと思っていたので、余計に彼の邪魔を許す訳にはいかなかった。
「クレメンス教官の高等戦術論?」
「ああ」
覗き込もうとするのを遮るようにしてレポート用紙を抱え込む。高等戦術論は彼の得意分野らしく、過去彼のクラスを担当した教官は彼のレポートを高く評価していた。そして、ロイが彼と同室であることを知り、彼の考えも参考にして作成してみたら良いと親切心で助言してくれたのだが。
大きなお世話だ、とロイは内心歯噛みしたのだった。実際、教官が保管していた彼のレポートを読ませてもらったのだが、これがまた非の打ち所が無い完璧な構成で、例えば同じテーマでレポートを課されれば、おそらく自分もこのように導き出すだろうというものだった。普段飄々としているクセに、理路整然とした文章の端々に垣間見せた才能に言葉を詰まらせたロイだったが、それ以上に衝撃だったのは根本的な考え方が似ているということだった。それを頭から認めてしまうのは、些か癪なのだ。
構ってもくれないそんなロイの邪険な態度が面白くないのか、彼はむぅっと唸るといきなり「えいっ」とばかりにロイの手許から抱え込んでいたレポート用紙を器用に取り上げた。
「なっ…何をする、ヒューズ!!」
背の高さを利用して高い位置まで持ち上げたレポート用紙を取り返そうと声を荒げるロイと瞳が合った彼は、漸く満足そうにニヤリと笑ってみせた。最初の出逢いの時もそうだったが、彼等の間でそれはよくある光景だった。それは、最早二人の間で意識することすらしない日常の光景と化しているのだ。
「クレメンス教官のなら、そう慌てなくても大丈夫だろ。いざとなったら俺が面倒見るし?」
「余計なお世話だ!返せ!」
燃やすぞ、と剣呑な口調で脅すロイに対し、彼───ヒューズは少しも臆しない。臆するどころか聞き分けのない子供を相手に苦笑いさえ浮かべた。
「まーったく。そんな頭でっかちになろうとすんな。子供には子供の社会ってモンがあるだろ」
お前の場合は、もう少し協調性ってヤツを学ばんとなぁ───などと諭すような口ぶりで。その余裕っぷりが更に鼻持ちならなくて、いよいよロイの癪に障った。
「ところで、そんなロイ君に訊くけど。お前、酒って呑んだことある?」
むっつりしたロイへいきなり何の脈略もなく話題を変えたヒューズは、唐突にそんなことを訊いてきた。
「…ない」
呑んだことないと答えれば、ふてぶてしいまでの余裕ぶりを見せつけるこの男に更に子供扱いされるのだろうか。
「呑んだことがなくて悪かったな。生憎、好き好んで脳細胞の死滅を早めるような愚かな真似はしない主義だ」
「だろうなぁ。そういう悪さとは無縁っぽそうだもんな、お前」
妙に納得されるのも、それはそれで腹が立つ。普通彼等の年頃なら、大人の目を盗んでの悪さに興味を覚えるものだが、幸いというか不幸にもというかロイはそういったものに一切興味を覚えなかった。そんなことよりも重要だったのは、錬金術とそれに付随する膨大な知識の取得の方だった。ある意味、ロイは少年達に必要な成長過程を逸脱してしまったとも云え、故に純粋培養なのだともヒューズの瞳には映っているようだった。
「なら、これが初体験ってワケだ」
「…は?」
鳩が豆鉄砲を喰らったかのような表情を浮かべたロイに向かってヒューズはニィッと口角を引き上げると、傍らに置いてあった袋から瓶を3本と細長い銀色のスプーンを取り出して机の上に置いた。
「俺さ。カクテル作りにゃ、ちょっと自信あんのよ」
フフンと鼻歌を歌いながら、ヒューズは作り付けの棚からコップを二つ出してくる。
「流石にカクテルグラスは用意できないんで、あり合わせのコップで勘弁な」
「ちょ、ちょっと待て。何処からそんなもの調達してきた!?」
ここは殊更規則に厳しい士官学校寮である。学校の敷地外へ出ることは、規定日と特例を除いて禁止されている。彼等士官候補生は、謂わば<学校>という名の窮屈な檻の中で飼われているようなものだ。そして当然のことではあるが、今ヒューズが机の上に置いた『もの』の持ち込みなど禁止事項の筆頭である。
おまけに。ヒューズは寮生の代表であり、本来寮内の風紀を取り締まるべき立場にある寮監生ではないか。その寮監生自ら風紀を乱し、不良行為を働いてどうするのだ。
しかし、ロイが柄にもなく喚くのすら気に留めることなく、ヒューズはただ飄々と。
「うん?寮生の規則破りを見ないフリしてやる見返り…ってトコ。世の中、ギヴアンドテイクってヤツで。なんつーの、お前の得意分野で云うところの…えーと、ほら…」
「…等価交換」
「そうそう、等価交換」
そう云って悪びれずに笑うヒューズを見上げ、ロイは呆れてげんなりと肩を落とした。悪党もいいところではないか。
寮則破りに目を瞑る代わりに、などと平然と云い切るこんな男が寮監生でいていいのだろうか。自分も他人のことを云えた義理ではないが、自分以上に外面の良いこの男のことだ。人懐こい笑顔で平然と教官を騙しているのだろう。一皮剥けば、とんでもない悪党だ。
「どした、ロイ?」
「こ…の悪党」
毒づいたロイだったが、ヒューズは呵々と笑ってあっさりと受け流してしまった。
「ま、俺は寮監生だからさ。これっくらいの職権乱用は許されるワケよ」
呆れて物も云えないロイである。一方ヒューズは上機嫌にフンフンと鼻歌を歌いながら、慣れた手つきでカクテルを作り始めた。目の前で披露される手際良さに、物珍しさも手伝ってすぐに引き込まれる。
「ジンとドライ・ベルモット。この組み合わせだとマティーニになるんだけどな。ここにチェリー・ブランデーっていうさくらんぼのリキュールを加えてステアすると…」
コップの中に注がれたそれぞれがヒューズの操る銀色のスプーンで混ぜられ、綺麗な赤色の液体に生まれ変わった。
「ほら、出来上がり」
目の前に置かれたコップをしげしげと眺める。まるで焔のように、それは綺麗な赤色をしていた。
「チェリー・ブランデーを心持ち多めに入れといたから、ちょい甘口だぞ」
鼻を近づけてクンと嗅いでみる。すると、鼻腔いっぱいに甘く芳醇な香りが広がった。続けてひと口呑んでみる。口当たりが良く、ついアルコールなのだということを失念してしまいそうだ。
初めて口にした酒は思いのほか甘く飲み易いもので、ロイは警戒心を解いてコクコクと呑み始めた。
「美味いか?」
素直に頷く様子を見て、ヒューズが満足げな笑みを浮かべる。気難しくて扱い難いロイを頷かせたのだ。得意にもなるだろう。
「…自信があると自分で豪語したことはある」
「そりゃ、どーも」
口先ばかりの男ではないということは、寝食を共にして薄々判り始めていたが。何をさせても器用な男だとロイは思った。
黙したままで、ロイは空になったコップを彼の目の前に置いた。<もう一杯>と口ではなく漆黒の瞳で語ると、ヒューズは困ったように肩を竦めた。
「おいおい、まだ呑むってか?」
「呑ませてやると云ったのは、お前の方だろう。だったら、私が満足するまで呑ませろ」
「呑ませろって…あのな、口当たりが良くて一瞬ジュースかと思っちまうけど、これって結構アルコール度数高いんだぞ?お前みたいなアルコールの免疫がない奴がそんな呑んだら、すぐに酔いが回っちまって大変な目に遭うって」
「いいから!」
早く呑ませろ。と声を低めて凄むあたり、ヒューズが指摘するまでもなく酔いが回ってきているのかもしれなかった。
「…ひょっとして、酔ったら絡むクチかよ」
それとも?
小声でひっそりと呟くヒューズを睨みつけ。
「ヒューズ、早く」
「…ハイハイ、仰せのとおりに」
ジンとベルモット、そしてチェリー・ブランデーがコップに注がれ手早くステアされて、再びロイの前に綺麗な赤色のカクテルが置かれた。どうぞ、と苦笑交じりに促され、ロイは満足そうに首肯する。まるでジュースを飲むような勢いでそれを呑み干すと、ロイはアルコールの所為で紅潮した頬を緩ませた。
「美味しい。ヒューズは…器用だな」
蕾が綻ぶかのような可愛らしい笑顔を浮かべ、少し足らずな口調で告げる。頭の中が次第にぼんやりと霞みがかり、いろいろ考えるのが面倒臭くなった。意識がまともであればとんだ失態だと舌打ちもしようが、フワフワしていて気持ちが良い状況下ではそれも叶わない。
そんな彼の笑顔を目の当たりにしたヒューズが、「…反則だ」とボソリと呟いたのも当然気づかないロイだった。
「ロイ?」
云わんこっちゃねぇ。ヒューズの呆れた声が遠くで聞こえた───ような気がした。


「酔い潰れたコイツの介抱は当然俺で…二日酔いの叱責を受けるのも俺…なんだろうなぁ」



翌朝。
最悪な目覚めと共に、ロイは置き土産の二日酔いまで初体験する破目となったのだった。


士官学校寮100室巡り by同室同盟

酔っ払い…というか、アルコール初体験の巻。
カクテルの話を書きたくて書きたくて、無理矢理こじつけたお話です。この時のことは大人になっても覚えていて、事あるごとにヒューズはロイに「お前に悪の道へ引きずり込まれた」とか云われたりしているよう(苦笑)。>それはまた別のお話で。
ちなみに、このカクテルは『キスインザダーク』。
暗闇でキス…っていう響きがイイ(苦笑)。
Comment







(編集・削除用)


管理者にだけ表示を許可
Trackback
http://sinners.blog13.fc2.com/tb.php/82-13761a1d
プロフィール

安曇

  • Author:安曇
  • 今日も元気に生きてます。
カレンダー(月別)
09 ≪│2017/10│≫ 11
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -
最近の記事
最近のコメント
最近のトラックバック
月別アーカイブ
カテゴリー
ブロとも申請フォーム
ちびギャラリー
 

presented by.●○紅羽のTWぶろぐ○●
ブログ内検索
RSSフィード
リンク
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。